泣ける映画 泣き虫しょったんの奇跡の感想

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久しぶりに映画を見て泣きました。号泣というほどではないですが、ほろほろと涙がこぼれました。やはり、映画館でみる映画はいいですね。

毎月恒例の集まりが思ったより早く解散して、ちょうどそこが映画館の前であり、あとの予定もなかったので、たまには映画でも見て帰ろう、と思って見たのがこの映画「泣き虫しょったんの奇跡」(豊田利晃監督・松田龍平主演)です。

ちょうど今から上映開始、待たずに見れたのが、たまたまこの映画でした。チケット購入機にお金を入れてから選んだという、行きあたりばったりの映画選びです。

目次

泣き虫しょったんの奇跡 あらすじ

予備知識がなかったもんで、中川翔子が出てくる映画かなと思ったんです。しかし、しょこたんは全然出てこなくて、しょったんでした。将棋の映画だったのであります。

しょったんというのは、映画の主人公、棋士の瀬川晶司さんの小学生時代からのニックネームです。泣き虫のしょったんが将棋界の慣習を打ち破る、大どんでん返しの奇跡を起こすという映画でした。アクションもバイオレンスもミステリーもラブロマンスもお笑いもない、とても静かな映画です。

主人公の しょったんこと瀬川晶司氏は、私と同い年の昭和45年生まれです。時代背景がよくわかったもんで、すぐに映画に引き込まれました。小学生時代のしょったんは、クラスでちょっと浮いているというか、地味で目立たない少年なのです。ただ、将棋だけが強くて、そこだけは皆に認められているという感じ。

子供にしては、感情表現に乏しく、バカ笑いとか、真っ赤に興奮して怒るとかありません。感情が表に出るといえば、将棋に負けてトイレにこもって泣いている時くらい。私も喜怒哀楽の感情表現に乏しい方でしたので、おおいに共感できました。

ストーリー紹介(ネタバレ注意)

将棋だけが取り柄の地味な男子しょったんが、周りにおだてられてその気になって、中学校を卒業する頃、将棋のプロ養成機関の「奨励会」に入ります。

才能はあるのですが、似たような同輩たちとのんべんだらりと暮らし、それほど死にものぐるいの努力をすることもなく、人に気を使って自分の勝ちにこだわりきれないという性格も災いして、プロの条件である4段までなかなか上がれません。

奨励会では26歳までに4段に上がれないと、クビです。子供の頃より将棋一筋で、他には何にもできない奨励会員は、プロの道を閉ざされたショックで自殺したりするそうです。3段リーグで生き残れるかどうかという頃になると、みんな体調や精神がおかしくなってきます。

いよいよ昇段の最後のチャンスというとき、しょったんに奇跡が起こってプロになれるんかなと思ったら、そうじゃなくて、他の負け組同様、去ることになるのですね。ああ、かわいそう。

ここまでのストーリーは長いのですけど、映画の本当の展開はここからです。

しょったんこと瀬川さんは、人の役に立つでなし、自分の幸せにも繋がってないような将棋、なんのためにやってきたんやろなーという気分になり、退会後しばらくやさぐれます。兄貴は真面目に働け、と厳しいのですが、お父ちゃんは、優しく、好きな道を行けといってくれてます。でも、そんなお父さんは、事故で死んでしまいます。このあたり、不幸続きです。

瀬川さんは、遅ればせながらの大学生活の後、一般企業に就職するのですけど、幼馴染でかつての将棋のライバルと久しぶりに将棋を打って、やっぱり将棋は好きだなあと思い出します。

それで、サラリーマンになってからも続けてたら、アマチュアチャンピオンになりました。テレビ番組のプロアマ対決でも勝ちの方が多くなりました。だんだんと応援してくれてくれる人が増えてきます。

奨励会の落ちこぼれがプロに勝ったとしても、いまさらプロになれるわけではないと、将棋界の事情をよく知る本人は諦めてるのですが、周りが、そりゃおかしいと言い出します。奨励会しかプロへの道はないなんておかしい。年食ってからプロを目指すのも夢があっていいやんかと。

瀬川さんは奨励会にいた時は、自分の勝ちだけのために辛い将棋を打っていたけど、将棋は自分のためだけじゃないんだなと、気持ちが変わっていきました。周りの人たちの強烈な後押しもあり、奨励会出身のプロ棋士の保護に頑なだった将棋連盟がついに特例を認め、6本勝負で3勝すればプロになれるということになりました。

最後の勝負、瀬川さんは、応援してくれる多くの人を思い浮かべながら、感謝の気持ちで一手一手指していきます。そして、ついに・・・! というお話です。

泣き虫しょったんの奇跡 見どころ

マンガ的な見方をすると、抜け忍のカムイが、刺客の忍者に追われるとか、タイガーマスクが虎の穴のプロレスラーと戦うとか、かつての同門と同レベルの技術で対決するというドラマを彷彿とさせるところもありますが、将棋の勝負って、見ていてもあんまりよくわかんないですし、そこはそれほど感動する部分じゃありません。(いや、将棋に詳しい人が見れば面白いのかも。監督が奨励会出身だそうなので、そのあたりも凝っているのかもしれません)

で、私がなんで泣けたのかというと、まあ、映画館だったからということもあります。家のテレビで映画を見ようとすると、雑事に囲まれすぎていて集中できず、感情移入できないんですけど、映画館だと邪魔されず、最初からおしまいまでじっくりスクリーンに浸れますから。この映画、家のテレビだと、感動できなかったかもしれません。じっくり浸らないと、なにげに筋だけ追って、なんだか静かな映画やったなあ、で終わったかも。

でも、じっくり鑑賞できて、共感して感情を刺激される部分が、おおいにありました。

将棋のことはあんまり知りませんが、何の世界でも、英才教育を受けてエリートコースに進んだとしても、その道の一流のプロになれる人は、ほんの一握りです。過半数は頭打ちになって道半ばで挫折します。挫折して、自殺するのは少数派でしょうが、多くは生活のため、方向転換して、堅実な銭儲けの道に入ります。かつてめざした道はすっかり縁を切るか、まあ、趣味でボチボチ、よくて指導員てところ。

私も、熱心にやってきたことはだいたい挫折してます。見切りをつけて縁を切ったものもありますが、諦めきれずにボチボチ続けているものは多いです。好きこそ物の上手なれとはいいますが、下手の横好きです。ある程度は上達して、世間人並みレベルの平均よりは上だろうと思えるものはありますが、プロに手が届くほどじゃありません。ただの趣味です。

奨励会で日常生活のほとんどを将棋に捧げていた瀬川さんに比べれば、たいしたことはないですが、けっこうな時間や費用の投資もあったわけです。でも大成してません。で、生涯そんな感じで終わるんだろうな、と思っておるわけです。

奨励会をクビになった瀬川さんを、負け犬の傷のなめ合いみたいな思いで見ておりましたら、瀬川さんには再び日の目を見る日がやってきたのです。本人は、好きでボチボチ、もう期待もなく純粋に楽しんでいるだけだったのが、周りの人たちが動き出してくれたのですね。

小学生の時の先生からハガキが来たり、子供時代に指導してくれた将棋道場の店主がラジオにかじりついていたり、コックに転身した奨励会のときの仲間が喜んでくれたり、この辺りは、感動モノですよ。

というわけで、泣き虫しょったんの奇跡を見た後は、自分も同じ道をしつこく歩み続けておれば、流れが変わって上昇気流に乗れるかもしれない!と夢を見られるかもしれません。夢を諦めてしょぼくれた人生を送っている大人の方におすすめの映画です。

まあ、実際のところ、最初の一握りに入るより、敗者復活の難易度はさらに高いんじゃないかという気もしますが、人生七転び八起きです。平均寿命百歳という長寿の世の中もそう遠くはないでしょう。しつこくしつこく諦めない人生も、また一つの生き方じゃないでしょうか?
(「諦めが肝心」という格言を否定するわけではありません。)

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