介護に役立つ太極拳

夜の公園でいつものように太極拳を練習しておりました。

すると同じマンションのオバサマが、走り寄ってきて、「助けてくれませんか?」と声をかけてこられたのです。

ちょうど棍を振っているときでありまして、なんだっ? 年末の暴走族の襲撃か? オレオレ詐欺が居直り強盗になったのか? それともNHKの集金?

事情を聞くと、そういう暴力的な話ではなくて、ご主人がお風呂に入ったまま、立てなくなって、でられないというのです。

このところ弱ってきて、認知症テストでも陽性と診断され、介護の申請をしたばかり、ということでした。

お湯は抜いている、ということでひとまず溺れる心配はありませんが、風邪をひいたらいけませんので、剣やら大刀やらガチャガチャとかついだまま、大急ぎで駆け付けました。

119番に要請されたそうなのですが、病院に行くのでなければ出動できないと、断られたらしいです。

「声をかけても、返事がなくて、ピクピクしているんです!」くらい言えば、来てくれたんでしょうけど。

裸で風呂の底にへたっているご主人は、けっこう大柄で、横幅が浴槽いっぱいでありました。

暖房はついていて体温の低下はなし、顔色よし、しゃべられているので、意識も良し、温和な感じで殴られる心配なし、と判断し、靴下のまま、浴槽に入り、前から抱っこのようにして立ってもらいました。

靴下のまま入ったのは、滑らないようにです。

殴られる心配をしたのは、昔、介護タクシーでの送迎で、認知症の要介護者をベッドから起こそうとしたときに殴られたことがあったからです。元プロボクサーの人でした。ボケても良いパンチでした。

単独で、せまいマンション用風呂桶の中にはいって、体重90㎏を超えるであろう要介護者に、密着して立ち上がってもらうというのは、介護職時代もやったことはありませんでしたが、難なくできました。

現役の時なら、作戦を考えるのにちょっと時間をかけたかもしれませんが、瞬間で判断できました。武術なら、敵を目前にして、悠長に考えていられませんものね。

私にもたれかかってもらい、立ち上がってもらい、風呂のへりに座って、足を片っぽずつ外に出し、ベッドルームまで歩いてもらうのには、太極拳の聴勁と化勁、発勁といった推手の力加減が役に立ちました。

抵抗して踏ん張る相手を発勁で飛ばすのと、脱力している相手に反射を起こさせ発勁で誘導するのとは、同じような難易度かなあ? 相手の要介護度レベルにもよりますね。たぶん。

なんにせよ、無理な力は使わなかったので、骨がボキッというとか、肌が擦れて痛いとか、そういうのはなんもなく、不快な思いはされなかったと思います。(ニンニク臭いとか、男に抱かれる不快さは除く)

私の方も、腰や背中に負担はなし。お互いに楽ちんです。

古武術の技術を介護に活かす、みたいな本があったように思いますが、太極拳も十分、応用できます。

介護職の人は、太極拳を学ぶと良いかもしれませんね。(表演競技用の形ばかりの太極拳は除く)

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