永井隆「いとし子よ」感想・レビュー

おもいもよらず長崎旅行に行くことになり、ぷらぷら観光所巡りをして、立ち寄った永井隆記念館で購入した本が「いとし子よ」です。

帰りの新幹線で読んでいて、涙が出ました。

新大阪に着くまでに全部は読みきれず、そのあと、全部読むのに、ちょっと時間がかかりました。

というのも、娘が読みたいというもんで、先に貸していたのです。

娘は、永井隆さんのことも奥様の緑さんのことも、すでによく知っていました。修学旅行中に習ったんでしょうね。それで関心を持ったのでしょうけど、娘が私の読んでいる本を読みたいなんて、珍しいことです。

娘の感想も聞きたいところですが、なんとなく反抗期で「べつにぃ~」とか「特になし」とかいって、教えてくれません。まあ、なんか感じたことはあったでしょう。

この本は、父から二人の幼子に話しかける内容です。ただ、あるていど大きくなってから読むであろうと想定しているように思えます。

それは、自分の死後になるだとうと考えておられたのでしょう。

私は父の立場で共感して泣きました。娘は、子の立場で父の思いを感じたであろうか?

ま、無理ですね。小学生では…。

永井さんは17冊ほど本を出されているそうですが、寝たきりになってから書かれたそうです。

寝たきりになるまでは医者として、忙しくされていたようですが、放射線障害による病気がどんどん悪くなり、起きられなくなって、それでもできることをしようと、本を書き始められたのでした。

二人の子へ対する心配、願い、申し訳なさとか、無念さとか、いろんな思いが滲み出ていますが、暗さはなくて、むしろユーモラス、なんだか透明感のある美しい文章です。

敬虔なキリシタンなんだなあと感じさせますが、カルト信者みたいな狂信的なところはなく、理知的で現実的です。

永井さんの考え方や、子供に伝えたいことは、とても共感できます。

徹底した反戦主義なところだけは、私とはちょっと違いますが、軍医として戦場の恐怖を知り、原爆で一瞬で妻を失い、この世の地獄を見て、自分の命もあとわずかという人が伝えようとしていることです。上っ面の理屈のはずがなく、魂からの想いであるはずです。

これが信仰心のなせるものなのでしょうか?

永井さんって、誰かに似ているよなあと思ったら、昔見たテレビアニメ、「ポリアンナ物語」のポリアンナのお父さんですね。牧師さんであり、幼い娘に「なんでも良かったと思え」と伝えて死ぬのです。

そういえば、私の所属する倫理法人会の創始者、丸山敏雄先生もおんなじだ。

とことん苦難、受難を受けた人が至る心境は、そのようになるのでしょうか。

私なんぞ、うわっつらの理屈屋に過ぎません。

大口を叩いて偉そうにしていたヤクザ上がりの兵隊が、いざ銃撃戦が始まったら、隅っこに隠れてブルブル震えていたというエピソードが出てきますが、いざとなったら、私もそんな感じになるかもしれません。実際に体験してみんことには、わからんです。

寝たきりの永井さんのところには、ヘレンケラー、バチカンの枢機卿、昭和天皇もお見舞いに来られています。

本人にえらそばったところはなさそうですが、たぐいまれなる稀有な人格者としての評判が、世界中に広がり、多くの人を引き寄せたのでしょうね。

すぐれた武術家が人格者とは限らないとは安田先生に聞きました。武を学ぶ者には徳が必要です。

病気やケガで寝たきりになってしまえば、武術もへったくれもなくなりますが、徳は死後も残り、語り継がれ、人々に影響を与え続けます。

怖れ多くも天皇陛下にお見舞いにきてほしいとまでは思いませんが、せめて我が子には、物事を正しく見て、正しい考え方をして、正しい行動ができるように、影響を及ぼせるような父でありたいと思いました。

父に対しての思いは「特になし」でもいいですけど、徳を未来に繋いでいってほしいと思います。

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