百田尚樹「フォルトゥナの瞳」感想・レビュー

フォルツゥナって何だろうと思ったら、運命を司る神様のことだそうで、物語は、人の死を予知できる能力を持ってしまった男のお話。

物語の主人公は、幼いときに家族を亡くした、無口で人付き合いが下手で、仕事しか興味のない若者です。

仕事は、自動車のボディコーティング職人です。私も以前、中古車屋にいて、車のボディをよく磨いておりましたもんで、親近感を感じました。私のは、ものすごく雑な磨きのやっつけ仕事でしたけど、物語の主人公は、腕の良い職人です。

死が迫っている人の体が透けて見えるというのが、彼の能力です。しかし、それだけ。情け心を出して、助けようとして人の運命を変えると、自分の方がダメージを負います。

同じ能力を持つ医者に、人の運命にかかわるなと忠告されますが、見て見ぬふりのできないいい人なのです。

死が迫っている女性を助けて、恋が始まります。

自分には価値がないから、人助けで死ぬのも悪くない、と思っていたのが、大切な人ができて、苦悩に陥ります。

物語はテンポよく、途中でやめられず、スラスラとおしまいまで読んでしまい、最後は泣いてしまいました。

終盤はどんでん返しの連続で、ラストにビックリ大どんでん返しがあります。泣けるんです。

百田先生の小説、自己犠牲を描いたお話がけっこうありますね。永遠のゼロとか影法師とか。このお話もそうです。

私は、見ず知らずの大勢のために、自らの命を引き換えにできるかなあ。たぶん、ようしません。

百田先生は、穏やかな老後をなげうって、日本をよくするために政党まで作ってしまって、ド根性の自己犠牲の人だなあと思います。

ただ、正義感、情熱、行動力など、素晴らしいとは思うのですが、ちょっと視野が狭くなって、世の中をフラットに見えなくなってるんじゃないですか、という気もする今日この頃です。

クルマのボディ磨き屋みたいな、地味で、時間のかかる、たいして儲かることもないお仕事、政治の世界にもあると思うのです。

小さいことの積み重ねを着実にしている自己犠牲精神のある議員さんもおられますわね。

業界の一面しか見ず、十羽一絡げで、なんもかんも悪者扱いするのはいかがなものかなあ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い状態に陥っているように見えます。

鳥の目、虫の目、魚の目、小説を書くときは大きく小さく、広く狭く、裏も表も陰も陽もいろんな目で物事をとらえてこられたと思うのです。

私は、自己犠牲はたぶんようしませんけど、偏見や執着のない透明な瞳で、世界も自分自身も正しく見て、正しく考え、正しく行動できる人間でありたいと思っております。

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