地下足袋のレビュー(太極拳用品として)

地下足袋をK先生よりクリスマスプレゼントでいただき、1カ月履いてみた感想です。

道場でしか履いておりませんので、5回、10時間くらいの短時間の検証になりますが、結論として「地下足袋は太極拳には向かない」と判定いたしました。

先生に悪いので、道場ではこの先も履き続けますけど。

さて、なぜ地下足袋が太極拳に向かないかという理由です。

地下足袋自体はすごく良い履物だと思うのです。

滑らない、脱げにくい、足と一体化して微細な感覚がわかりやすいというように、信頼性が高いです。そういう信頼性が重視される場面にはとても合いますでしょう。

足場作業とか、だんじりを引っ張るとか、物音を立てず石垣をよじ登ってお城に忍び込むとか…。

太極拳の靴にも信頼性が必要では? と思われるかもしれませんが、実際の戦闘現場ならともかく、鍛錬用としては、信頼性より重視すべき要素があります。

それが、地下足袋では得られないというか、相反するというか、要するに、練習に向いていないのです。

まず、足裏の粘着力が高すぎます。濡れたコンクリートの上でも滑らないという長所が、太極拳の鍛錬にはマイナスになります。

虚の足は常に滑らせておきたいのですが、床に引っかかった感じがします。爪先の向きを変える扣脚・擺脚もやりにくいです。

掃腿をしようとしたら、床に粘着しすぎて、ひっくりこけそうになりました。足裏の滑らない状態で太極拳の動作を行うと、膝に捻じり力がかかってしまうかもしれないですね。

また、初心者が地下足袋を使うと、粘着力に頼って踏ん張ってしまう悪癖がつく恐れがあるようにも思えます。

脚とのフィット感、これも良さげに思えますが、太極拳の鍛錬用には、いまひとつ。

太極拳用には、ある程度、靴の内側に隙間があって、靴の中でも足裏が滑っているくらいがちょうど良いです。靴は動いていないのに、中で爪先の向きが微妙に変わっている、というのがグッド。

靴下も、ゴムのイボイボがついているようなのより、普通にツルンとしているのがふさわしいです。

地下足袋は、親指と人差し指のところが切れていて、挟み込むようになっているので、内側でも全然滑りません。用途によっては、ベリーグッドな特性だと思いますが、太極拳の鍛錬には合わないのです。

微細な足裏感覚がわかることは重要ですが、これは薄っぺらのカンフーシューズでも大丈夫。

そして脱げにくい点。

脛の真ん中あたりまで12枚のフックで締め付けて、靴紐よりさらに脱げる心配が少ないのが地下足袋です。手の離せない高所作業なんかには絶対要件みたいな長所ですね。

武術的にも、戦闘中にブーツが脱げたら致命的ですから、脱げないことは重要に思えます。

しかし、太極拳の鍛錬用と考えると、そうでもないのです。

雑な足使いをしたら靴が脱げるという、一見マイナス面が、とっても上達に役立ちます。

紐もゴムバンドもないカンフーシューズは、キックボクシングみたいな蹴り方をしたら、どっかに飛んでいきます。

しかし、擦脚、蹬脚、擺脚、旋風脚といった太極拳の足使いであれば、激しく発力しても飛んでいきません。

靴が脱げるか脱げないかが、基本から外れているか、正しく動作できているかの判断の目安になります。

私が安もんのカンフーシューズを愛用しているのは、そのためです。(どうせ履き潰すんだから靴代をケチっているという面もなきにしもあらず)

きょうびの自動車は、車庫入れを自動でやってくれたり、車線からはみ出したら勝手に戻してくれたり、ぶつかりそうになったら止めてくれたり、安全装置がいっぱいですが、運転の練習でそんなもんに頼っていたら、上達しませんわね。ヘマこいたらぶつかる、という危機感がない人は自動車の運転をすべきでないです。

それと同様に、下手に動いたら靴が脱げるという危機感がある方が、太極拳は上達するように思うのです。

そんなわけで、あまりに信頼性の高すぎる地下足袋は、太極拳の鍛錬用としてはふさわしくないなあと判定したのでありました。

あと、布地が薄くて冬は足先が寒いというのもありますけど、それはまあ、カンフーシューズも寒いです。

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