太極拳の突きと蹴りと発勁

今更なんですが、太極拳の練習の段階について、他の武術経験者が疑問に思うであろうところを、考察してみます。

空手でも少林寺拳法でも、初心者は、というかベテランでも、突きと蹴りの練習をいっぱいやります。

私も一杯やりました。少林寺拳法修業時代は、お正月の寒稽古は学内の池に浸かって何百本突きとか、夏は砂浜で先輩や後輩を担いで蹴りを何百本とか。

ゲロ吐くとか血尿が出るとか、アタリマエ。(私はタフだったので、さほど出ませんでしたけど)

空手道場にお邪魔した時も、基本稽古は、突き蹴りをひたすら、というかんじでした。

他の拳法はあんまり知らないですが、同じような感じじゃないかと思います。空打ちだけでなく、パンチミットやサンドバッグを使うこともありましょう。

ところが、太極拳ってそういう練習は、あんまりしません。

そもそも陳式以外の太極拳は突きとか蹴りとか打つイメージがありませんが、陳式でも掩手肱拳をひたすら何百本という感じの練習はしないです。

かくいう私は、実はやってました。

鉄砂袋とかサンドバッグも叩いたし、掃腿でグルグル何回転もしてました。

しかし、そちらばかりに注力すると、上達は遠回りになります。

サンドバックはいい音を出してユサユサ揺れるだろうし、掃腿は人をすっ転ばすくらいはできるようになるでしょうが、それは違うんですねー。

先にやるべきこと、登るべきステップがあります。そのステップをスキップして飛ばして進むと、散々鍛えたつもりの突き蹴りも、結局やり直しになって二度手間です。

たまには、発勁、発力動作を散々やる、という練習もいいかと思いますが、初心者がすべき練習ではありません。発勁が打てないレベルで、勢いよく突き蹴りの練習をしても、太極拳の動きになりません。

そして、勢いよく突きや蹴りの練習をいくら積んだところで、発勁は生まれません。

ここんところ、外家拳と内家拳との違いとか言われるところかもしれませんね。

それならば、突き蹴りの前に何をするんだといえば、私の教室では歩く練習を重視しています。そして立つ練習と、このごろは座る練習も取り入れるようになりました。

これは、足元おぼつかぬお年寄りの健康のためという意図が多分にあるのですが、太極拳の修行の段階としても、合っていると思っております。

それから、基本纏絲功です。手をグルグル回すやつです。これは、ひとつの動作を、百回くらいやります。一度に全部の種類はできませんので、その日の気分で、どれか二つ三つを選びます。

2時間の練習時間のうち、ここまでで90分くらい使います。実はここんところが勁を養うための最重要項目だと思うようになりました。

あー、筋肉痛になった! という人はいますが、ゲロ吐いたり血尿を出す人はいません。

残りの30分で、套路と推手をします。

第2部として、武器の練習を1時間やりますが、これは残りたい人だけ。

素早いパンチやキックの練習はしませんが、歩くのと蹴るのは同じとか、基本功の手の動きがそのまま打つ動作になる、というような説明はしており、そのイメージは持ってもらうようにしております。

たまにやる発力の練習は、棒をもって歩くついでに、というかんじです。なにか持っていた方がイメージが湧きやすいと思うのです。

まだ誰も、パシッとした発力はできませんが、まあ、そのうちできるんじゃないかなと思っております。

ちょっとやってみ? パシッ! あっ、ぼくにもできた! となるのが理想的だと思っております。ベスト・キッドのミヤギ老人とダニエル君みたいに。

私自身の練習は、套路中心です。各種武器の套路も毎日やります。

サンドバッグを叩いたり、単式練習もやりますが、最優先ではなくなりました。

套路の流れにそって発勁するのが、一番効率的で実用的な練習方法だと思えるようになってきたからです。

基本纏絲功の勁の流れのまま套路ができるようになってきたので、套路練習はそのまま基本練習です。そして応用練習でもあり、仮想推手でもあります。

しかしこれも、勁を常時発生できる段階になってこそ意味のある練習だなあと思っておりまして、やっぱり纏絲を練るステップをスキップして套路のマネごとばっかりやっていても、発勁は生まれないし、変な癖がついたら二度手間になりますんで、自己流でやるんなら、やらん方がマシ、とも思っております。

私もかつては、突き蹴りの練習をした方がいいだろうとか、形練習より対人練習が実戦的とか、基本と套路のどっちが大事?とか、いろいろな思い込みや疑問がありましたが、今はスッキリ全部繋がって正しく理解できるようになりました。

陳家溝ネイティブで、生まれたときから正しい順序で学べた先人達には思いもよらない疑問だろうなあと思いますけど、日本で学ぶ人は、以前の私と同様、わかってない人が多いんじゃないかと思います。

わかってないままエラソーに語る人が多くて、あーあ、と思うことがしょっちゅうありますが、いちいち口出しして険悪になりたくないので、ここに書いときます。

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