知人から書籍「虎を抱いて山に帰る」を紹介されました。
「太極拳を通じ体感する東洋哲学の心髄」ということですが、昔、読んで、たいして面白くもなかったかな? という記憶があります。
内容はあまり覚えておりません。もしかして今読み直したら、違う感じ方をするかもしれませんが…。
武術的な内容ではなかったというのは、間違いないと思います。東洋哲学を体感するためのエクササイズ、ワークショップの記録というかんじで、ヒッピー世代の東洋かぶれのアメリカ人が喜びそうな内容だなー、と感じたように思います。
太極拳とはなにか? というのは、私もその時々で感じ方、考え方が変わります。初めて学んだ30年前からは、ずいぶん変わりました。
最初は東洋哲学とか全然思っていなくて、格闘の技術的要素でしか見ておりませんでした。
このごろはもう少し、視野が広がったように思います。
先生から学んだことの影響も大きいです。
太極拳とは、太極門という生き方、生活習慣のうちのひとつ、というのが、安田先生からの学びです。
それはちょっと壮大過ぎて、まだピンと来るところまで修行できておりません。お料理を作り始めたり、道を歩いているときも立身中正、虚霊頂勁を守っておこうという程度のものです。
あとは、暑い寒いなどの自然は、有り難いものとして、受け入れようとかですかね。極端なことはしない、陰陽のバランスを調整して中庸で、という暮らし方も、太極の哲学かも。
武術的な面での受け止め方は、かなり変化しました。
以前は、野馬分鬃はこのように使うのだ!というような、浅く薄っぺらい技術の探究をしていましたが、そんなもんじゃないわなーと気が付きました。
この頃は、太極拳とは、武術と養生のためのプログラムやアプリのようなものだなあ、という気がしています。
何百年、十何世代もかけてバージョンアップされてきた、人体にインストールするアプリです。
ダウンロードしてインストールして実行すれば、人体を健やかに養生し、いざとなれば防衛のために自動的に戦えるという優れものアプリです。
アプリを実行してさえおれば、事に当たっていちいちコマンド入力しなくて良いというものです。
実感したのは、他流派の人たちとお手合わせしたときでした。皆さんの未知の攻撃に、自分の頭では思いつきもしない動作で対応できたのです。
あとから考えたら、それらは野馬分鬃や金剛搗碓、白鵞亮翅などの動作の応用変化でした。
足を引っ掛けるつもりはなかったのにすっころばしていたり、意図せず膝で相手を持ち上げていたり、首取りを防いでいたりしました。
いちいち相手の攻撃意図を分析して、対応策を考えて、数通りのパターンから選択する、なんてことはしていないです。自動運転です。
これが太極拳か! と我ながら感動しました。
私は武術的な面での気づきを得ましたが、健康や養生の面でも、恩恵を受けているのだと思います。
私はもともとずっと健康なのであんまり意識していないのですけど、ヨボヨボだった高齢の生徒さんが、えらいシャキシャキ歩けるようになった例は見ています。
ただし、この太極アプリは、パソコンやスマホみたいに、クリック一つでダウンロードできるわけではない、というのが難点ですね。
専門家によるアドバイスが必要だし、努力と時間が必要です。ダウンロードに5年、解凍に10年、インストールに20年、みたいな。
多くの人は、ダウンロードの途中で終わっている、みたいな。
不完全だったり、文字化けしていたり、実は類似の粗悪プログラムと間違えていたり、そこに自分で考えたヘンテコなプログラムを付け加えたりして、結局、使えない、みたいな。
アプリを実行できる状態にまで、正しくインストールできている人は少ないと思います。
完全版をインストールできれば無敵の健康を手に入れられるような気がしますが、なかなかそこまでたどり着けませんね。
私も、まだダウンロードの途中ですが、一部分、最初の方のプログラムは実行可能になっているかな? というかんじ。
生涯かけて、完全版をモノにしたいものです。
太極拳だけじゃなくて、太極門という壮大なプログラムを体に染み込ませたいですね。
ところで、アプリやプログラムというものは、時代や環境の変化に応じて更新も必要ですが、更新は、今の時代はなかなか難しいと思います。
更新って、伝統を進化させるってことです。よっぽど極めた人でないといけませんね。
養生だけなら、現実社会で実験して検証もできましょうが、敵を瞬殺で絶命させるといった武術的要素は、現代社会では検証できません。やったら捕まります。
この先、更新されることもなく、失伝する一方じゃないかなという気もします。
事実、縮小版、簡易版が主になっているように思います。
簡易版であっても、ちゃんと使える基本的な機能が備わっていれば本物の太極門の一部としての太極拳だと思いますが、現代の昇段制度とか見ていると、どうでしょうね? アプリ実行まで行き着かないような気もします。
せめて、太極拳を通じ東洋哲学の心髄を体感できればいいな、と思ってます。…そっちのほうが難しい??
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