基本功・套路・推手の関係/関連性

「基本功・套路・推手の関係/関連性も知りたいです。」とのコメントをいただきました。ちょうど、そのことを考えており、良い機会なので考察してみます。というか、私が習ってきたことをまとめてみます。

先日、推手道場で、推手がなかなか上手にならない人に、「套路は何をやってますか?」と聞いたのです。

すると「最近は、あんまりやってない」との答え。

「あんまり」というのは「全然」ということでしょう。ということは、基本功もやってないと思われます。

それならばと推手は止めて、基本功を一緒に練習してみました。推手道場にきてるのに、なんで基本功やねん! と不満に思われたかもしれませんが、これ以上、手を合わせてグルグルしていたところで、進歩なし! と判断したのです。

私の学んだ最初の基本功は「前面纏絲功」という、片手を雲手をやるようなかんじで回す感じのものですが、この方、それもできません。

知ってはおられるのです。できているつもりになっておられるのです。でも、意味のない動き、推手には役に立たない動き、変に捻じれて、膝や腰を傷めそうな動きなのです。

「手を回す」というイメージが、よろしくないとおもったので、体重移動と、手を開く「開合」のところだけ分解して、練習してみました。懶扎衣とか単鞭の動作です。

この動作で掤勁が発生しなければ、推手は意味のないものになります。

さてこの人、ひねったり回転させたりという癖が浸み込んでなかなか抜けず、勁が生まれてきません。上下相随もできてなくて、上体と腰と下肢の動きが、ずれてグネグネです。これを整えて統合させる必要があります。こういうのは自由な推手をなんぼ頑張ったところで、できることはありません。

言葉で閃くタイプの人ではないので、私も手を合わせて、同じ動作を何度も何度も繰り返してもらいました。(これも推手の一種といえないこともないですが)

こういった手取り足取りレッスンは、私もしてもらってきたことです。(というか今も継続してもらってます)

推手に取り組む前に、基本功をみっちりやりこんで、体に浸み込ませないことには、あかんのです。合気柔術でも古武術でも、なんでもそうなのではないでしょうか?

ボクシングもスパーリングを始める前に、鏡を見てさんざんシャドーボクシングをやって、フォームを整えていきますわね。(ただいま百田尚樹「ボックス!」を読書中)

農作業をしているとか山を登っているとか、日常的に統合された体の使い方をしている人なら、すんなりいきそうですが、デスクワークの人は、トレーニングしないとだめです。

太極拳の体の使い方をできるように、太極拳向きの体を作っていく地道な作業が、基本功です。ボクシングで言えば、ひたすらジャブと縄跳びの練習、みたいなかんじでしょう。

私が道場で教えた人は、ボクシングで言えば、ジャブも打ててなかったということになります。

基本功を組み合わせて、コンビネーションにしたものが「式」または「勢」です。「形」といっても良いかと思います。ボクシングで言えば、左ジャブと右ストレートの組み合わせ、みたいな。

コンビネーションのバリエーションは無限ですが、このパターンを体に浸み込ませておけば変化に対応できるであろうという応用の利く基本形が「勢」ですね。(「式」というと、定式で止まっているところみたいなイメージがありますが、「勢」だと、一連の動きといったニュアンスがあります。)

ボクシングも、左ジャブ右ストレート左フックみたいな組み合わせに防御の動作も入れて、いろんなバリエーションがあるそうですが、太極拳の場合、基本的なコンビネーション「勢」が13あるそうです。だから昔は太極拳のことを「十三勢」と呼んでいたのだとか。

13の基本的な動作の、方向をちょっと変えるとか、掌を拳にするとか、変化させたものも数えるようになって、36式とか72式とか増えていって、それをひとつひとつ単独で練習するのではなく、一連のひとつながりにして、これさえ通せば全部練習できるようにと作られたのが「套路」です。「套」は「セット」という意味だそうです。

套路はボクシングにはなさそうですけど、各人、自分の練習パターンを持っているんじゃないでしょうか。

さて、基本功と套路で身にしみ込ませた動きを、実際の人間に相手をしてもらって、感度を高めて、洗練させていくのが推手です。ボクシングで言えばマスやスパーリングに当たりましょう。

ボクシングの基本動作にない、蛙飛びジャンプアッパーカットをスパーリングではしないわけで、太極拳の推手も、基本功、套路に合わないことはしません。

太極拳の場合、ここが断絶している人が、とても多いです。そんなん套路でやったらおかしいでしょ!ということをやってます。

シャドーボクシングとスパーリングが別物では、積み重ねた練習の意味がなくなります。

四正推手のように決まりきった形なら、まだ套路との関連がわかりますが、自由に動いたとしても、十三勢の変化でなければ、太極拳の推手とはいいがたいです。

「基本功・套路・推手の関係/関連性」は、こういうものだという認識であります。

で、推手と套路のどちらが重要かといえば、私は套路だと思っています。

スパーリングばっかりで基本練習をやらねば、それは喧嘩には使えても、ボクシングとしては劣化していきます。推手ばっかりでは、太極拳の妙技から離れていきます。

そして、推手より、套路の方がはるかに応用の幅があり、実戦的でもあります。

ボクシングの場合、試合のルールに合わせてスパーリング練習があり、そのために基本練習があるわけですが、太極拳の推手は、試合のための練習ではありません。

推手は套路を洗練させるための補助練習です。膨大な情報量を含む套路の内の、ほんの一部分だけの練習方法です。

そして、套路は実戦のためのものです。

推手では、殴ったり蹴ったり、つねったり、ナイフで刺したりしませんが、太極拳の套路には、すべて想定されています。対人でナイフ術の練習をできる機会は少ないですが、套路を打つときに、相手がナイフを持っていると想像してみれば、いつでもそんな練習ができます。

形の美しさを競う表演套路と、足が動いたら負けの競技推手では、まるきり別物に見えてもしょうがない気もしますが、本来の太極拳は、そういうもんではなくて、両方合わせて武術、分けられるようなものではないのです。

…と私は習いました。

60代おやじさま、こんなもんで参考になりましたでしょうか。

コメント

  1. 60代おやじ より:

    なんと 私の名前付きの丁寧で膨大なコメントを頂き、恐れおののくばかりです。
    ありがたく拝読させて頂きました。

    ・太極拳向きの体作りが基本功
    ・基本功を組み合わせてコンビネーションにしたものが式または勢
    ・13ある勢をつなげたものが套路
    ・推手はスパーリング

    関連性が一瞬で理解できました! 悟りが一段上がったようです。

    これらを踏まえた私なりの理解は、
    ・基本功→套路→推手 の一連の動作は基本功の延長
    ・套路における式、勢の動作は基本功に則った正確な動作が必要
    というものです。とすれば大事な基本功で重視するポイントは所謂「要訣」になるのでしょうか?

    いずれにせよ今回の教えで日頃の練習の意識がガラッと変わりますし、上達が早くなる気がします。

    本当にありがとうございました。

    追伸.公式のページを一個人宛の指導に使って頂き、本当に恐れ多いです。以降は無きようにお願いします。(他の方々にも申し訳ないです)

    • パパだよ より:

      一個人の戯れのブログ、公式というような大それたものではありませんから、個人的な疑問でも、どんどんコメントしてくださいませ。

      ネタが増えてありがたいです。

      他にも喜ばれる人がいるかもしれませんし。

      十三勢については、厳密にいうと、コンビネーションのもととなる八法五歩のことをいう説もありまして、基本功も13の勢、すなわち掤、捋、挤、按、採、挒、肘、靠、進、退、顾、盼、定の組み合わせとも言えます。

      まあ、難しい話はさておき、

      套路も推手も基本功の延長であり、基本功で養った正確な動作が必要というご理解で良いかと思います。

      「要訣」「要諦」は基本功でも、套路でも、推手でも、大切です。

      最初に習う「初伝」こそ「秘伝」なのです!(と習いました)