4冊買ったルソン島での戦争の本の3冊目。
お話のスタートが、敗戦のおよそ一カ月前でした。
ということは、私の祖父が戦死した後のことです。
じゃあ祖父の手がかりは得られんなあと思いつつ、別に手がかりを得るのが目的でもないので、ちゃんと読みました。
タイトルからは、「一人だけ生き残った!」という印象を受けますが、生還兵は10万人くらいいたのですね。
戦後も長く一人で潜んでおられた小野田少尉の話ではなく、敗戦のタイミングで降伏して生還した日本兵達のことでした。
ざっくり60万人がフィリピンで参戦して、50万人が戦死して、死にかけの10万人が敗戦で武装放棄して、捕虜になり、戦犯者と非戦犯者に篩い分けられて、非戦犯者は収容生活ののち帰還した、ということなのです。
著者の高橋さんは、米兵捕虜を殺したり、フィリピン娘を犯したりしていなかったので、非戦犯。
先に読んだ2冊の著者は、現地人殺害などに加わっていたようですから、戦犯となるはずですが、そこらへんの判定って、どうだったのでしょう。
被害者の証言とか、首実験で犯人を特定するという手法が用いられていたようですが、被害者の記憶があいまいだったり、そもそも被害者は生存していないことも多かったりでしょうから、いい加減なものだったと思います。
高橋さんも、現地人をだまくらかしてドロボー等はしていたようなので、潔癖無罪でもないです。
ところで、これまで3冊読んで、気づいたことですが、ルソン島の戦いで、一番とばっちりを受けたのはフィリピン人じゃなかろうか。
そもそも戦争に関係ありません。戦争当事国の都合で戦場になってしまった不幸な国の人達です。
当初は、占領してきた日本側にも気づかいがあったためか、わりと親日だったようですが、困窮してきた日本軍がドロボーや略奪を始め、そのうち秘密保持のために処刑とか、欲望のままに強姦とか無茶苦茶やったので、敗戦の時には罵声を浴びせ、石を投げつけられたのでした。
収容生活では、ボス的フィリピン人から言いつけられて、帝国軍人が米軍施設からドロボーするという悲しさ。
高橋さんの記録は、描写がものすごく細かいです。
敗走生活を描いた前半では、アメーバ赤痢になると、どのように死んでいくとか、芋ばっかり食っているとウンチはどうなる、踏んだらどんな感じとか、シラミの潰し方とか、ヘルメットを使っての脱穀の仕方とか。
ルソン島には、軍属ではない在比邦人もかなりいたようなのですが、それらの人の悲惨な死に様とかも書かれていました。前の2冊には、でてこなかった話ですね。
収容されてからは、支給された服の着心地とか、タバコの種類とか、白人兵と黒人兵の違いとか、食事や娯楽など、すごくリアルで、生活臭があるというか、みみっちいことも細かく書かれています。
高橋さん自身、けっして豪快な人ではなくて、なんかこう、小市民が無理やり兵隊になってしまった、という印象を受けます。
部下に殴られてるし。
フィリピン人の使い走りはするし。
戦闘の描写はほとんどありません。
前の2冊では大きなテーマだった食人については、まったく描かれておりません。相当細かいことまで書かれている高橋さんが、食人のことだけは書くのを避けたというのも不自然なので、すべての部隊で人食いをしていたわけでもなかったのかも?
そこはわからないです。
3冊ともに書かれていたのは、死んだ戦友の小指の骨を遺骨として携帯していたということです。
収容所では私物は一切合切没収とのことで、高橋さんは遺骨も持って帰れなかったとのことですが、なかには戦友の名簿まで隠し持ち帰った猛者もいたそうで、やはり高橋さんの気の小ささが出ております。
祖父の遺骨も、誰かが途中まで持ち歩いてくれていたのかもしれませんね。
持ってた本人も戦死した可能性が一番高く、次が収容所で手放した、没収された、失くした可能性があります。
生還が奇跡なら、遺骨の帰国はそれ以上に奇跡的といえるでしょう。
ようやく収容生活から帰国の許しがでて、引き揚げ船で日本に到着、名古屋からはるばる島根の自宅までたどり着くところは、泣けました。
復員兵ってズタボロのイメージでしたが、実は帰る前に新品の軍服を支給されたのですね。それも明治とか大正時代の。
つまり昔の売れ残り。
それを着て、明治時代の人の方が体格が良かったとか、昭和のは粗悪品とかも書かれていました。
戦中の製品が粗悪なのは仕方ないとしても、明治の人の方が体格が良かったとは意外でした。
ところで、高橋さんの文才はかなり怪しいです。誤字は多いし、意味が分かりにくい言い回しもちょいちょいあって、プロの作家の文章じゃないです。
でも、ここまでリアルな体験を淡々と聞かされると、すっかり気持ちが入ってしまいます。
派手でかっこいいところなどまったくない物語でしたが、読んでいて、戦地で苦しんで、敵の収容所で命が繋がって、国に帰れたのは奇跡!という気分になります。
そんな生々しい物語でありました。
コメント