起勢のエクササイズとトリック

太極拳の套路の最初の動作である起勢は、手を上げておろすという一見単純な動きですが、なかなかに難しいのです。

正面から押さえられた腕を、起勢の動作で持ち上げられるか? というエクササイズを、だいぶん前にN先生に習いましたが、全然できなかったので、あきらめて忘れることにしておりました。

道場でまたそのエクササイズが行われておりましたが、私は、その一団には参加せず、いつもの練習相手の素直だけど覚えの悪いSおばさんと、起勢と野馬分鬃の形の練習をしてました。

24式の始めの方の動作ですけど、私から習いたいと希望されているSおばさんに、私が形ばかりの説明をするわけがなくて、太極拳としてちゃんと勁が作用する動作を実演、練習しておりました。

Sさんが所属されている教室での教えとは全然違うらしいのです。その教室って、ロクなこと教えてへんなーと思いつつも、私のは陳式やから、ちょっと違うかもしれませんねーとソフトに説明しております。

すると、先ほどまで起勢エクササイズに参加していた、デモデモ女史が、私の手を押さえるから起勢で浮かせてみて欲しいと要求してこられました。

うーむ、ずっとでけへんかったやつや、試すようなこと言いよって、やらしいなーと思いつつ、じゃあどうぞ、と手を持ってもらい、起勢をやってみたら、なんか、簡単に、デモデモ女史を飛ばせてしまえました。

あら、いつのまにかできてた!

しかし、分析するに、私の勁が強くなってたとかではなくて、思考回路と体の反応が以前とは変わっていただけです。

押し付けられても、勁の強さで対抗せねば!というイメージじゃなくて、押されたら引いたらええやんと、自動的に後退していたのです。

型どおりなら起勢は足を動かしませんが、私は一歩引いてました。その結果、化勁ができて引進落空が起こったわけです。

頭で考えるまでの反応です。ここ数年の鍛錬の成果が自動的に出た、ということでありましょう。

デモデモ女史からしたら、そうじゃない!それはインチキ!と思ったかもしれませんけど。

まあ、太極拳の技術はすべて、正々堂々の力比べじゃなく、インチキして勝つ、みたいなもんです。

起勢に限らず、こういったデモンストレーションには、トリックがあります。自分は勁を効果的に使い、相手には勁をださせないというテクニックです。

実力差がないとできませんが、できる先生、できない生徒という構図を作って、生徒にはもちろん、見ている人たちにも自分をリスペクトさせる効果があります。

そして、逆もできます。

自分の勁は控えて、もしくは下手な拙力をわざと作り、相手の勁を発揮させやすい状況を作ってあげるのです。

相手の勁をうまく引き出し、自分の方を「背」に落とし込めば、見事にすっ飛んだり、ひっくり返ったり、自作自演できます。

生徒は「ぼくにもできた!」(ジャイアント馬場風に)と感激して、自信を持ってくれます。

ただし、うかつにやると生徒が、自分は実力者、先生は下手くそと勘違いして、舐めてきますので、日頃さんざん発勁を食らわせておいて、今はわざと受けてあげているのだよ、と理解してもらう必要はありますね。

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