空手バカ一代と陳氏太極拳

私が中学生くらいのころに読んで、大変興奮した記憶のある「空手バカ一代」が、スーパー銭湯の休憩室に置いてあったので、なつかしく読んでみました。

つのだじろう作画の第一部が好きですねー。

その第一部の終わりの方に、大山倍達先生が人生初の敗北を喫したエピソードがあります。単行本の10巻から11巻です。このエピソードは大山倍達著「世界ケンカ旅」にも出てきたように思います。

世界中を武者修行して無敗を誇るマス・オーヤマこと大山先生が、日本に帰る前に、香港にいると聞く中国武術の達人に会ってみようと訪問するのです。

その達人は、陳という名前の小柄な老人でした。

大山先生は、てっきり、若い時の栄光を引きずっている老人を、周りの人たちがチヤホヤしているんだと思って、お話だけ聞いて帰ろうとするのですが、老人の方から、ひとつお手合わせを、といわれるのです。

しょうがない、寸止めで、もはや現役でないことをご理解いただこうと上から目線で承知するのですが、なんと!

何をやっても、届かない。避けられる。そのうちに攻撃される。かなわない、まいりました、となり、感動で、涙をホロホロとこぼすのでありました。

このお話、陳老人は香港在住の中国武術の達人、としか紹介されていないのです。

これは漫画でも自伝でも同じで、陳さんは何の拳法の人なんやろなーと謎だったのですが、今回、よーく読み直してみると、陳老人が「単鞭」の形をとっているシーンがあったのです。

もしや、太極拳!?

さらに良く眺めてみると、背景に「陳氏太極拳図説」と書かれた書物が。

あら、まあ!

世界のマス・オーヤマが初めて敗北した相手は、陳式太極拳だったのですね!

おや、ビックリ!

空手バカ一代は、ノンフィクション風であっても、けっこうフィクションという話は聞きますので、このエピソードもどこまで本当かわかりませんけど、極真がかなわなかった支那武術が、少林拳でも蟷螂拳でも八極拳でもなくて、太極拳だったというのは、なんだか嬉しい話です。

私は昔、極真にボコボコにやられた経験がありますので、とっても嬉しい話なんです!

20歳そこそこの頃の話です。

お手合わせといえば、たいてい、お互いの技をゆっくり掛け合って、なるほど、なかなかのもんやなー、こんな風に返せるかなあーと試しあうようなものだという認識だったのですけど、その時の相手は、いきなり猛烈にラッシュしてきて、全然、かわせなかったのです。

うわー、極真、もう嫌! と、トラウマになったのでありました。

今は、いろんな武術の人とお手合わせしていただいてますが、合気道の人も空手の人も紳士的で、お互いに切磋琢磨しております。極真の先生とお話することもありますが、とっても紳士です。当時のあの人だけが、異常だったのでしょう。

大山先生も、無茶なラッシュをせず、真摯に学ぼうという姿勢だったんだと思います。あのエピソードが実際の話だったのだとしたら。

大山先生は、手合わせのあと、泊まり込みで、陳老師の指導を受け、一週間後には陳老師の一番弟子をギャフンと言わせるほどレベルアップし、陳老人に「もう中国武術の神髄をつかまれましたね!」と、言わしめるのです。

さすが世界のオーヤマ!

武術家同志の交流はこうでありませんと。それが武徳というものでありましょう。

私をボコボコにした、あやつだけが、武徳のない奴だったに違いありません。(いまだに根に持っている??)

まあ、なんにしても空手バカ一代には、陳氏太極拳に対する敬意を感じられて、一介の学習者である私は、大変うれしく思ったのでありました。

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