先日「達人への道」のスピーチをさせていただいた発表会の後、懇親会に向かう道で、「太極拳ってどう戦うのか想像もつかない」という感想をいただいたのです。
その時は、それにお答えできる時間がなかったし、あまりマニアックな主張をする場でもありませんから、なにげに笑って流してしまいました。
そんなわけでこちらに私の考えを書いときます。ちょいちょいブログにも書いてきたような気がしますが、まとめになりましょう。感想いただいたKさんに読んでいただけると幸いです。
まず、コートとかリングとか金網の中で、端っこ同士に向かい合って立ったところから、「始め」とか「カーン」とかいう合図とともに、トットットと寄っていったり、ジリジリと詰めていったりして、射程距離に入ったところでバチバチ打ち合うという、格闘技のイメージをお持ちだと、まるで理解できないと思います。
太極拳は、遠方からの射撃対応には向いておりません。打ち切って突っ込んでくるような攻撃にはまだ対応できるかもしれませんが、ヒットアンドアウェイみたいに、打つと同時に退くような攻撃に対応できるようには作られていないのです。
特に私は、目が悪く動体視力が弱いもんですから、昔からそういうのが苦手でした。それで太極拳に転向したというところもあります。
間合いが遠く、離れられる余裕があるなら、逃げます。もしくは、間合いを埋められるだけの武器を持ちます。ここで格闘競技として成立しません。
そうなのです。太極拳は格闘競技には使えないのです。敵から身を守り生き延びるための武術なもんですから、相手に打ち勝つのは二の次で、まずは身を守るということが優先です。
正面から向かい合って、正々堂々、パンチキックの応酬とはなりません。「一本!勝負あり!」という判定がありえないのです。
太極拳の技術を格闘競技に持ち込むと、ほぼ反則技しか残りません。逃げるのも武器を持つのも反則ですが、そのほか足を踏むとか、金的、目、喉を狙う、肘、膝、体当たり、頭突き、指を折る、などなどです。
逃げるか、瞬殺か、どっちかです。
戦略にしても、逃げまくりながらリングから転がり落とすとか、金網の隅っこに後ろ向きに追い詰めて手足を封じた状態で打ちまくるとか、そんなかんじになりましょう。
レフリーストップ必至です。
太極拳の戦術の特徴として、とにかく間合いが近いということがあります。ほぼ密着状態からの攻防を得意とします。近すぎて、パンチキックを出せないというくらいの至近距離でこそ、太極拳の技が生きてきます。
太極拳の練習は「搭手」というお互いの手の甲を合わせた距離で行います。この距離から、いろいろ変化して技になります。
練習では、上方や後方に飛ばす、地面にへばりつかせる、手前に転がすというようなことをします。初心者は、ヨロッとふらついたり、足を浮かせる程度です。
慣れてきた人は、関節の逆をとったり、拳や掌で軽く打ったりして、それを躱す練習もします。
相手の動きは、目で追うのではなく、肌の感覚で察知します。ですので、上級者同士なら、手を合わせた時点で「負けました」「勝ちました」と判断できます。
ここまでくると極上の戦い方だなあと思いますが、傍目には意味が分かりませんね。囲碁の名人対決で、なぜここで投了するのか素人にはわからないようなものです。
そういった微妙な感覚のやり取りが、太極拳の楽しさでもあります。
太極拳が有利なシチュエーションとは、平らで広いコートではなく、狭いとか、足元悪いとか、薄暗いとか、そんなところじゃないかなあという気がします。
私は実際に太極拳で戦ったことがないので、そのへん確信をもっては言えませんが、薄暗くてもお手合わせはできますね。夜の公園とかで練習してますし。
以上、私の思うところの太極拳の戦い方というお話でした。
あまり詳しくは語れませんでしたが、Kさん、おおよそのイメージをわかっていただけましたでしょうか?
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