推手の指導

推手の道場では、70歳オーバーの、ある女性に、集中的に推手のレクチャーをしています。

なぜかといいますと、このおばあちゃんが、私を見つけると、いち早く寄ってきて、教えてや!といって、放してくれないからです。

ここでは私は先生ではなく、一介の練習生にすぎませんので、別にえこひいきということもないし、まあ、いいか、と思っていろいろ教えております。

だいたいここの道場に来る人は、既にいろんな教室で太極拳を学んでいて、昇段試験を受けたり、表演大会にでたりもして、しかし推手を練習する場に飢えていて、ようやく見つけた数少ない推手の道場ということでやってこられます。

ですので、もとの教室で学んだヘンテコな常識で、脳みそが凝り固まっている人が多いです。

このおばあちゃんも例にもれずでしたが、あんがい素直で、私がパラダイムシフトを起こすようなことを言っても、わりと受容力が高くて、けっこう上達が早いです。

そうなると、私も面白いです。もともとの下地があるので、私が主催している教室の初心者メンバーとは、ちがうアプローチができます。

週一回しか会いませんが、半年くらいで進一退一、進三退三くらいまで、なんとなくできるようになりました。

この人も最初は、ポン、リー、ジー、アンを、あげる、引く、前に推す、下に押さえる、と思い込んでいて、動きがガチガチで妙なことになっていましたが、私と組みだして、だいぶん動きが柔軟になってきました。

私自身もそんなふうにガチガチに思っていた時期もありますが、安田先生から指導を受けるようになって、ポンとアンは表裏一体、ジーとリーも表裏一体、四正四隅はみな同じ、という感覚に変わってきています。

これを言葉で説明するのは難しいですが、波みたいなものですね。

水面は上がったり下がったりするし、寄せては返して、ワカメや昆布がユラユラします。地球上の海水の量は変わりませんが、月の満ち欠けで、満潮のところと干潮のところがあります。丹田は沈み、頭は浮きます。開けば、閉じて合います。

…というイメージを、おばあちゃんに説明しているうちに思い浮かぶようになりました。

この方、道場ではまだ新人の方ですが、だいぶん上手な方になってきたんじゃないかなあ。

推手道場といっても、きちんとしたカリキュラムがあるわけでもなく、みんな好き勝手、組んでやっているだけです。

他の教室では先生という人も多いですけど、ここではワンポイントアドバイスをするくらいで、それも統一性がなく、楊式だったり呉式だったり、なんだか他武道の関節技みたいな先生もいるし、力は使わない!といいつつ、けっこう力ずくの人もいるし、テキトーです。

自分でいうのもなんですが、推手の実力はさておいて、指導力という点で見れば、私が道場でナンバーワンじゃなかろうか?

そういえば、以前、安田先生に見せてもらった、粘勁で指一本で相手を自在に動かすデモンストレーション、このおばあちゃん相手にできました。

レクチャーしている最中、ふと思いついてやってみたら、なんかできたのです。

以前は魔法みたいに思えましたが、なんちゅうことはなかったですね。おばあちゃんと波長が合うようになってきたってことです。

こういうことをちょいちょい見せれば、指導者としての信頼度が上がるような気もします。

安田先生のデモンストレーション技は、まだまだ凄いのがいっぱいありますけど、私もこの道の鍛錬、あと十年も続けていけば、けっこうできるようになれるんじゃないかなあー、と期待もしております。

着々と、達人への道を歩んでおります。

 

コメント