老架式と新架式についての考察

コメント欄にて質問をいただきました。同じような疑問を持つ人も多いと思われますので、ちょっと考察してみたいと思います。

ご質問

ところで新架式は老架式の発展形なのでしょうか? それとも老架式に改良を加えた新たな架式なのでしょうか?

また初心者がいきなり新架式を学ぶのは有りなのでしょうか? 老架式を学んだ上でないと新架式の意味が理解出来ないのではと推察しますが、如何でしょうか。

老架式と新架式の関係につきましては、多くの専門家が研究し、本やブログや論文で発表されておられます。

生半可な知識しか持ち合わせていない私が、語るべきではないと思っとります。

でもまあ、せっかくですから、教わったことや調べたことをざっくり書いてみます。信じるも信じないもあなた次第。

さて、陳家の武術を世に流出させた楊露禅の、師匠であった陳長興は、いわゆる老架式の人だった、というところから話をスタートさせます。

当時の陳家溝は、丘というか坂になっていたそうで、低いところには実戦武闘派が、高いところには研究肌のインテリが住んでいたそうです。陳長興の時代は平和だったと思いますが、そんな棲み分けがあったんでしょうね。

私は陳家溝に行ったことがないので、土地の距離感や高低差などがよくわからず、ちょっとイメージが湧かないです。

今の中国共産党政権下では、もはや行くことはかなわないような気がして残念ですが、現代の陳家溝は土地開発されて平地になっているらしいので、行ったところで昔のイメージは感じられないかもしれません。

それはさておき、陳長興の時代、坂の上の陳有本と陳有恒という天才兄弟が、それまでと違ったスタイルを編み出したと言われております。

編み出したといっても、新発明なのか、練習段階の1バージョンをデフォルメ化したのか、そこらへんはよくわかりませんけど、当時革新的でセンセーショナルなデビューだったみたいです。これが新架式と呼ばれ、それまでの陳長興スタイルは老架式とされた、ということです。

ところで、今に伝わる老架、新架という呼び方は、古い、新しいという意味に捉えない方が良いかもしれません。陳家溝出身の名人が、支那のあちこちに教えに行って、その弟子がまた陳家溝にもどってきたり、行ったり来たりしているうちに、逆輸入版に「新」と名前がついたり、陳家溝で新架式とよばれるものが、北京では老架式でよばれているとか、ややこしいことになっているようです。

当時の老架、新架と今の老架、新架が同じなのかは、よくわかりません。

ちなみに、老架式の大家、陳長興に学んでいた楊露禅の伝えたスタイルは、なぜか陳有本のスタイルと共通するところが多く、これは謎とされています。

「楊露禅は、師匠に内緒で陳有本にも習いに行ってたけど、師匠に申し訳ないから、ずっと黙ってたんとちゃうか?」という推測が「太極武藝館」のホームページには書かれておりました。(大阪弁ではないです)

なにしろ古い時代の話ですから、あいまいなことが多いですね。

>>太極武藝館

さてここからは、私の体感からの考察です。

私は、20歳のころより、ずーっと陳家溝の陳正雷老師の老架式の練習をしていました。といっても、ちゃんと習ったのは最初の2年だけで、その後は自己流です。デタラメになってました。

45歳くらいから、デタラメの楊式太極拳教室にも通い出しましたが、こちらは特に何の影響も受けていないので割愛しまして、その数年後、地元の陳式の教室にも通い出しました。

こちらで教えていたのは上海経由で伝わった新架式でした。先生の套路は新架式にしてはわりとシンプルな感じで、形とか、歩く方向とかは、老架式とは違ってましたが、感覚はこれまでやってきた老架式とあまり違いませんでした。

ですので、ああ、新架式はこういう動作が入っているのかーとか、ここではこっち向くのねとか、そういう違いしかわかりませんでした。纏絲や内功を感じることもなかったです。

それから数年後、安田先生と再会して教えを乞うた時、まず始めに、老架式と新架式の両方を、最初の単鞭までやって見せよ、と命じられて演じましたところ、新架式はそれなりに形になっておるが、老架式が全然ダメ、基本からやり直し、ということで、老架式の基本からという方針で指導が始まったのであります。

ここからが我ながら偉い!と思うところですが、これまでの経験はスパッと切り離して、ゼロから素直に学びました。

安田先生の老架式のご指導は、ものすごく厳密です。指先の角度まで修正されます。その段階では纏絲も内功も言われません。ただただ骨格の形を正確に整えていきつつ、柔軟性と筋力を養う、といったかんじでした。

そして数年、武器もあれこれ習いまして、老架式一路二路も、おおむね整ってきた、というところで、新架式の指導が始まったのであります。

これまでの数年は、形を整える訓練でしたが、不思議なことに、纏絲、内功を強く感じるようになっていました。構造が力を生み出す、という先生の理論を体現できたなあと思います。

ほんで新架式です。

内功が体を動かすという感覚は、老架式の訓練で多少は得ていましたが、それをさらに増幅させるのが新架式だったのだなあ! と気づきました。

直列4気筒エンジンがV型8気筒エンジンになった感じ?

つまり新架式とは「内功増幅訓練法」といえるのではなかろうか?

安田先生の新架式を学んだことで(まだ1回だけですが)、地元教室の上海新架も、まるで別物になったように感じますし、これまでやってきた老架式も変化してきました。

デタラメだと思っていた楊式太極拳も、その套路の中から本当の意味を見出すことができるようになってきました。(先生の指導を見たり聞いたりするとおかしくなるので、純粋に套路から掘り出しています)

というわけで、何をもって老架式、新架式とするかという問題はさておき、巷で言われる老架式、新架式は、私の経験では、まず老架式から始めるべきだと思います。

厳密な構造から纏絲勁が生まれるという体感がないまま新架式を習っても、形ばかりのグネグネ体操にしかならないような気がしますし、実際にそんな人が多いです。

新架式ならではの基本功からキッチリ積み上げて、内功を高めていくことももちろん可能ではありましょうが、そんな教え方をしてくれる教室があるのかなあ?

まあ、私の知る狭い範囲での感想ですので、たいした説得力はありませんが、参考になりましたら幸いです。

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