百田尚樹「モンスター」感想・レビュー

百田尚樹作品を片っ端から読んでおりますが、この「モンスター」は、百田先生のお顔を想像しながら読むのはNGです。

百田作品だという予備知識なしで、知らない女性作家が書いた小説だと思って読むのが良いかと。(といっても、このブログを読んでしまった瞬間、それは無理となりにけり)

「モンスター」は、女性心理の、緻密で、闇な部分をえぐり出したようなお話です。

生まれつきブスの少女が、恨み憎しみ嫉妬といったマイナス思考で、苦しい少女時代、青春時代を送りますが、社会人になってから、ちょっとしたきっかけで整形手術を知り、だんだん美人になっていきます。

気持ちも性格も、変わっていきます。これが良くなっているのか、悪くなっているのか、陰陽がグルグル入れ替わっているような感じです。

不細工でいい勤め先に入れなかったので、安月給です。

整形手術の資金作りのために風俗に身を堕としていきます。そのあたりは、もうエロ小説です。前回、「プリズム」で繊細な性描写が現れたのにはビックリしましたが、「モンスター」は、もっとドギツイです。

百田尚樹先生は、ワシは風俗なんか行けへん!みたいなお話をされていましたが、ほんまかなあ?

場面の切り替わりが早くて、せわしく、過去と現在を行ったり来たりするのは、この小説の特徴です。映像的で面白いですが、映画化は厳しいでしょう。18禁ですわ。

それに、ブスから美人に変化していくのって映像技術としてどうなのでしょう? 俳優をどんどん変えていく? CGならできるんでしょうかね?

また、映画なんかにしたら、人権活動家がなんだかんだ騒ぐかもしれません。

ブスは、すっかり美しくなって、別人として故郷に帰り、レストランのオーナーになり、恨みのある人々に復讐していきます。

途中、いくどか幸せのチャンスをつかみかけるのですけど、最終目的のためにフイにしてしまいます。

最終目的というのが、幼いころに親切にしてくれた男の子に振り向いてもらうということなんですが、目的を果たすのですが、こんなはずじゃなかったような結末で終わります。

結局、死んでしまうのですが、遺体の第一発見者の証言が、この物語にとどめを刺すようで、なんとも、やり切れぬ結末。

女性心理をここまで描き切れるって、作家の想像力にはおそれいります。さすがトランスジェンダーに一家言持つ百田先生です。

新政党を立ち上げられるそうですので応援いたします。

女性心理もですが、男性心理の方もえげつないです。

人は容姿じゃない、心だといいつつ、土壇場になるとボロが出て見苦しいのです。

真面目な男も、ハンサムな男も、理知的な男も、地位ある男も、財力ある男も、みんなそうなのです。詰められたら逃げるのです。

私自身も思い当たるところが多々ありまして、自己嫌悪してしまいそうです。

唯一、本当に真心のある男が、ブスだった少女が風俗入りを希望した時、諭してくれたヤクザの店長でした。

20年にわたって、なんだかんだ縁があって、幸せをつかむラストチャンスが、この元ヤクザのジジイだったと気づくのですが、みすみす逃してしまうんですねー。

天の与えたチャンスを、執着により全てフイにしてしまう女。

本能の束縛から逃げられぬ男。

あーあ。というお話でした。

>>モンスター|百田尚樹

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