日本では学べない太極拳の秘訣 感想

安田洋介著「日本では学べない太極拳の秘訣」を、発売日前からアマゾンに予約、発売日の翌日に到着しまして、二日間で読みました。

太極拳関係の本は、けっこう読んできたほうだと思いますが、これはなかなか今までにない視点からの内容でした。

 

読みやすいけれども、読み応えがあります。たぶん何回も繰り返して読みます。ブックオフで売りさばいたりは絶対にしないと思います。

中身は、動作の細かい説明などの、教室の練習で教わるような内容ではなくて、練習の合間にちょいと楽な気分で先生のお話を聞いている、といった内容が中心になっているような、私はそんな気がしました。

ですがそれが、他の先生からは、けっして聞くことのできないであろう、たいへん貴重なお話なのです。

休憩中のお話って、私の地元の教室では「きのうのテレビの、ためしてガッテンで言ってたんですけどねー」なんて、薄っぺらい話だったりするのですが、安田先生は、高校生の頃より陳家溝で陳式太極拳を学び、陳正雷老師に弟子入りして老師の自宅に住み込みで修行してきた人です。

本書にも書かれていますが、1日に8時間から12時間の練習があり、お料理当番で中華鍋を振ったり、水餃子を作ったりしていて、それも太極拳の修行の一環だったということで、そんじょそこらの先生とは、太極拳へのハマり方が桁違いです。

貴重なお話が、一冊の本に、まとめてもらえているのは、大変ありがたいです。

目次

本場の先生と、本場で学んだ日本人の先生との違い

太極拳の本場で生まれたときから修行してきた中国人の先生が教えるのと、日本人が中国で学んだことを教えるのとでは、どうやら大きな差があるように思います。

生まれたときから、太極拳の環境で育った本場の先生って、その環境が当たり前過ぎて、あえて説明する必要性を、認識できないと思うのです。

もちろん動作の細かいところや、用法など、丁寧に教えてはくれると思うのですが、陳家溝の地面は凍ってたりぬかるんでいるもの、椅子は低いもの、息は鼻でするもの、そんな説明が必要だとは、よもや思わないですね。

日本に教えに来る中国の先生でも、そこには気が付かないのでは?

また、日本から本場に学びに言っても、短期間じゃわからないと思います。

一週間やそこら、ホテルに滞在して、武術学校に通って、朝から晩までクタクタになるまで特訓を受けても、そこには気づくことはありますまい。(そういうのなら、行ったことはあります。酔拳を習いに行ったのですけど。)

やはり、先生の家に住み込んで、春夏秋冬の移り変わりを何度も味わって、太極拳を生んだ地域の環境とか文化とか生活とか、そういうことを肌身で理解できてこそ、違いがわかってくるのだろうなあと思いました。

日本では学べない太極拳の秘訣、というのは、そういう意味でありましょう。

太極拳と茶道

私の奥さんは裏千家の免状をもっております。

外国人に教えたことはないようですが、外国人に茶道を教えるには、どうする? と聞いてみたのです。

「やっぱり飲み方から?」みたいなかんじで、座り方とかお辞儀とか、お菓子の切り方などの手順、茶碗の持ちかたなど、作法を教えると言います。

まあ、体験コーナーではそうなりましょう。

もてなすだけなら、気軽に飲んでちょうだいというだけで、問題ありません。

しかし外国人に茶道の本質を教えるには、靴を脱いで畳の上で生活する文化であるとか、もてなしの文化とか、質素、侘び寂びみたいなことを、肌で感じてもらわねば、真髄はわかってもらえますまい。

そもそも、お茶を飲む、お茶をたてるってどういうこと? というところからですかね。私もよくわからないです。

うちの奥さんは、茶道を総合芸術だと言ってました。お茶のたてかただけでなく、いろんなことを学んで身につけないといけないと言っております。

太極拳も同じなのだと思います。

この本には、「太極拳は武術であり、芸術であり、娯楽であり、自然に則した生活方法であり、様々な側面が渾然一体となったもの」と書かれています。

週一の練習とか、昇級昇段試験の講義を受けても、そこまで理解することは不可能だと思います。

しかし、この本を読めば、その一端を知ることができますね。

また、太極拳に関して、日本人がよく勘違いしていることに関しても、書かれています。読めば目からウロコ間違いなし。

私も、安田先生に教わるまで、ご多分に漏れず、いろいろ勘違いしておりました。

勘違いを正してもらい、基礎的な概念とか思想みたいなことも教えてもらって、私の太極拳も、ずいぶん良くなったと感じております。

というわけで、陳式太極拳に限らず、太極拳を習っておられる日本の練習生は、老若男女問わず皆様、この「日本では学べない太極拳の秘訣」は、読んだらいいと思いますよ。

太極拳論とか読もうとして、よくわからず、くじけかけている人でも、この本なら、ぜんぜん苦もなく読めます。

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