この物語はすべてフィクションです。
第六十九話 八卦掌と太極拳の戦いのこと
試合はその後も続いた。
合気柔術、カリー、剣道、サバット、サンボ、システマ、シラット、テコンドー、薙刀、ボクシング、モンゴル相撲、レスリング…(アイウエオ順)
中国武術からは、蟷螂拳、通背拳、摔跤、酔拳なども。
実に多彩な流派の選手たちが集まり、互いの腕を試していた。
美鈴は二回戦を辞退。
拳二は日本拳法の自衛隊員と対戦したが、激しい打撃戦の末、体力が続かず押し切られて降参した。
東山先生は髷を結った力士と対戦。
東山先生は、力士に組み付かれるたびに崩し、転がし、また起こしては転がす。
十分間、延々と力士は転がり続け、東山先生が勝利した。
力士は砂だらけでヘトヘトだ。
東山先生は「まあ、土俵際がなかったからねえ」と慰める。
ヒロの試合は、あいかわらず奇妙奇天烈だった。
鎖鎌の使い手に対しては、オリジナルヌンチャク。
剣と盾を持つバイキングには、改造刺股と警棒の組み合わせ。
奇抜な武器を使い、エンタメ要素もたっぷりで連勝を飾った。
太児は、もう対戦するつもりもなかったが、案内係に呼び出されてしまった。
コートの向こう端に立っていたのは、なんとトニー渓その人であった。
トニーが太児に声をかけた。
「なんで、ミーがユーを気にかけているか、わかるざんすか?」
「テストに合格したからでしょ?」
「なんで、テストしたか、わかるざんすか?」
「たまたま公園にいたからじゃないんですか?」
「そんなたまたま、あるわけないざんす」
「えっ?」
「これが終わったら懇親会で教えてあげるざんす」
スピーカーから開始の合図が流れた。
「太児と、ざんすのおっさんやんけ。おもろなりそうやなあ」
テツが笑う。
「あの人、いい者なの、悪者なの?」
美鈴が尋ねる。
「ああ見えて約束事はちゃんとしよるしな。あんがい礼儀正しいし、ワシらにも丁寧や。ええ人ちゃうか?」
「内面に徳を備えた人なのでしょう」
伊東道戒が言う。
トニー渓が構えた。半身になり、片手を太児に向ける。
「やはり八卦掌じゃな…」
東山先生がつぶやく。
「え、八卦掌って?」
拳二が聞く。
「八卦掌っちゅうのはな…円を描くように歩き続けて、相手の死角に回り込む中国拳法じゃ。力でぶつからずに、位置取りで崩す。太極拳に似ていないこともないが…初めてだと、どこから来るか分からんじゃろう」
「そんな武術があるんだね…」
「それよりも気になるのは…」
「えっ、なになに?」
「…懇親会って、ビールとか、出るんじゃろか?」
「ビールは別料金では…? ていうか、俺たち未成年だよ!」
そんなことを言っている間に、試合は始まっている。
トニー渓は、太児の周りを八卦歩で回りながら近寄っていく。
トニーの掌と太児の掌が触れた。
その瞬間。
スコーン、と乾いた音が響いた。
太児の体が宙を舞い、砂の上に、叩きつけられた。
「……っ!?」
あわてて起き上がる太児。だが、自分がどう倒されたのか、まるでわからない。
「上に気を取られて、足を掬われたのじゃ」
東山先生が、のんびりと言う。
「目まぐるしい変化に惑わされると、厳しい戦いになるぞい」
拳二が腕を組んでうなずく。
「俺が負けたんだから、太児も負けてくれないとな。今後の学園生活に響くよ…」
「お主、案外ケツの穴が小さいのう。親友を応援せんかい」
「フレーフレーた・い・じ!」
「ま、たまに負けるのも良い経験じゃ」
「どっちだよ!」
「どっちにしても、この後の酒はうまそうじゃ」
「だから、俺たち未成年だっての!」