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小説「太児」第六十二話

この物語はすべてフィクションです。

第六十二話 怪我をさせない裏武術家達と武器のこと

第一回目の対戦が、4つのコートで同時に始まった。

勝ち残りのトーナメント形式ではない。

負けても次の会に出場できる。人数が多いので、総当たりとはならないようだが、前回の組み合わせも考慮され、なるべく多くの人に当たるよう組み合わされているらしい。

太児の出場するコートの第一戦は、空手VS合気道だった。

ふたりとも道着を着ているが、合気道の選手は紺の袴を穿いている。

「第一戦ざんす! レディ! ゴー!」

スピーカーから流れる合図を聞いて、向かい合った両者が礼をかわした。

空手家は拳を握り、合気道家は掌を広げ、向かい合って構える。

スススッと、両者が近寄ったと思った瞬間、空手家が突きと蹴りを連発した。合気道家が後ろに下がる。

大きな回し蹴りを、くぐり抜ける合気道家。

見ている方は緊張するが、戦っている本人たちは、にこやかだ。

空手家が突き出した右拳の外側に、合気道家がすれ違った瞬間、空手家は宙を舞い、背中から落ちた。

すぐに立ち上がり構えなおす空手家。

「さすがやね。米田はん」

「紙一重やったな。小山はんの突き、おとろしいわ」

お互い良く知る者同士らしい。笑いがこぼれている。

米田はんと呼ばれた合気道家は、小山はんの前蹴りをかわし、さらに打ち込んできた手を取り、返して、ひっくり返す。

小山はんが、投げられながらも繰り出した回し蹴りが、米田はんの首にかかる。米田はんは蹴りに合わせて、首を振り、すり抜けるが、その体制の崩れた瞬間に、小山はんは足の裏で着地、間髪入れず、米田はんの脇腹に正拳を叩き込み、連発して、アッパーカットを突き上げた。

あっ、やられた! と太児は思ったが、米田はんは倒れない。

「参った。ワシの負け」

小山はんのアッパーカットは、寸止めされていたのだ。寸止めといっても、1センチも空いていない。完全に当たったように見えたのだが、ダメージのないギリギリの距離で止めていた。その前の脇腹への正拳も、軽く当たっていただけだったようだ。

「肋骨骨折と、脳震盪やな」

両者、礼をして、コートから退場した。

「1コート、勝者小山さん。両者休憩して、第三戦目に備えてください」

女性の声が上がる。

試合時間は10分とのことだったが、3分も経っていない。

むこうの第2コートでは、武器対武器の試合がまだおこなわれているようだ。

「あれ、もしかして、ヒロさん?」

浅黒い顔に坊主頭、黒いコスチュームで棍を持っている男は、まぎれもなく、以前、薬物ゾンビの魔の手から太児と拳二を救ってくれたヘンテコ武器マニアのヒロだった。

ヒロの方も太児達に気づいたようで、一瞬、口を目を開いてビックリしたのち、ニヤッと笑った。

ヒロの相手は槍だ。槍の先についている刃が十字になっている。

両者、間合いを取り、お互いの突きをうまくかわして、カンカンと音を鳴らしている。

ヒロの棍より相手の十文字槍の方が、けっこう長いようで、リーチの差を埋めるために、ヒロは槍を払いつつ左右に回り込み、深い間合いに入ろうとする。

だが、十文字槍は引き際に引っ掛けることもできる。引き寄せられる十文字を防いだヒロの棍が、跳ね上げられた。

「あっ!」

しかし、跳ね上げられたと思った棍は、三つに分裂した。

「三節棍?」

伸びた三節棍が、ブン! と回転し、槍の相手の頭を狙う。

しかし槍男も巧みなもので、姿勢を落とし、棍を躱し、低い位置から十文字槍を突いてくる。

ヒロは戻ってきた端っこの棍をキャッチし、三節棍を十文字に交差させ、突き出された十文字槍を上から挟み込み、地面に突き刺した。

槍男は、槍を素早く手放し、空中を高く飛んだ。

なんと意外! 弾道ミサイルのような飛び蹴りがヒロを襲う。

「あっ!」

ヒロは、後ろに転がりながら、引き抜いた三節棍を、槍男に向けて振ると、カンカンカンカンカン!と音とともに、三節棍が伸びた。

「九節鞭?」

三節棍の3つの棍の一つ一つが、さらに3つづつに分かれて伸びて、9つの棍になったのだ。それぞれの棍はヒモでつながっており、棍というより鞭のようなしなやかな武器となる。

九節鞭が、鞭男の足に絡みついた。ヒロが起き上りながら、九節鞭を引き寄せると、槍男がどう!と倒れ込んだ。

ヒロがさらに九節鞭を引き寄せると、カカカカカカカカン!と、元の一本の棍に戻る。

ヒロは棍をくるっと一回転させ、槍男の喉元にピタッと当てた。

「ま、参った」

ヒロは、棍を外し、槍男の手を取り引き起こした。

パチパチパチと、まばらな拍手が起こる。

「2コート、勝者ヒロさんでした。両者休憩して3戦目に備えてください」

「うむ。すごいもんを見せてもらったのう」

東山先生が感心したように言った。

「だが、疑問に思わんか、おぬしら」

と太児達に聞く。

「えっ、まだ勝負はついてなかったとか?」

「場外にはみ出てたけど、ペナルティはないとか?」

「いや、そんな些末なことじゃない」

東山先生が険しい顔で言った。

「…節が二つなのに三節棍、節が八つなのに九節鞭とはこれいかに?」

「えっ、そこ?」

3コートでは、柔道対レスリング、4コートではカポエラ対ムエタイの対戦が終わったようだった。

※ 日本語の「節」は「中間の接続部」「区切り」のニュアンスですが、中国語では分割されたパーツを数える言葉ですので「構成パーツの総数=節数」になります。三つの棍なので三節棍。九節鞭は木製の節(セグメント)が8つで、持ち手(グリップ)と合わせて9節とカウントします。東山先生が知らないはずはなく、太児達をからかっているのです。

ドラゴンパパ:
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