車田和寿先生のYouTube番組「音楽によせて」で、芸術の普及について語られていました。
芸術、文化に「広めるべき」という発想は、いかがなものか? 現状では、「広める」より「守る」方が大事、という趣旨でした。
なぜならば、広める発想はビジネスとセットになってしまい、効率を求め、本質から離れていく恐れがあるからです。
江戸時代から続く老舗のうなぎ屋さんに喩えておられました。
昔からの味を守ってコアなファンの支持を受け続けるか、チェーン店化して秘伝のたれを工業製品に変えて、一般受けを狙って、大儲けするか?
コアなファンも、寿命が来れば世を去りますので、常に新しいお客さんに来てもらわないとお店は守れませんが、効率的に広めるのとは、違うだろうというお話でありました。
サッカーチームの在り方や、オペラ劇場の在り方なども、考えさせられるお話でありました。
車田先生は、芸術とビジネスは切り分けて考えるべき、その理解を多くの人に広め、本物を守るため、国家規模の支援を受けやすい文化にする、そのためには教育が大事、と述べられていました。
行政の支援の場でインチキが発生する恐れが多々あるので、注意が必要ですが、なるほどなあーと考えさせられます。
昔、文楽の補助金を打ち切って、ひと悶着起こした知事がおられました。
あれはあれで、それまで半分死んでいた文化が、生き残りのために活発化したという効能もあったようで、文化とビジネスの、さじ加減もあるなあーという気もしたものですが。
で、太極拳です。
太極拳はすでに普及しています。大したビジネスでもないですが、それなりに経済圏ができていると思います。オリンピック種目に採用されていたら、より大きなビジネスになっていたことでしょう。
しかし、広まってるけど、守れているか? というと、私は大変疑問に思っております。
秘伝のたれを使った老舗のうなぎ屋はほとんど消滅し、人工的な味付けのチェーン店ばかりが増えている、そんなかんじがするのです。
本物のウナギのかば焼きを食いたい! でもそんな店は、ローカル線の終点から、一日2便しかないバスに乗り換えて、バス停から1時間歩かないと辿り着けない! みたいなかんじ?
家の近所のサークルとか、ネットの検索上位に、本物の太極拳はないと思うのです。巨大な団体はチェーンの元締めみたいなもんでありましょう。
あんがい、近所のシャッター商店街の奥の方の薄暗いところで、本物のかば焼き屋が細々営業を続けていたり、近所の公園で夜明け前におじいちゃんが本物の太極拳の練習をしていたりするかもしれませんが、巡り合えたらラッキーですね。
守らんとアカンようなもんは淘汰されるべき、との考え方もありましょうが、時代に合わないものに価値はない、ということでもありません。時代は巡るものですから、再びその価値が必要とされる世になるかもしれません。(これは安田先生が言っておられました)
そんな世になった時に、もう残ってなかった、すでに絶滅、というのは悲しいことです。
「悪貨は良貨を駆逐す」といいますが、太極拳業界もそんなかんじがします。
せめて私は、良貨を守る側でいたいなあと思う今日この頃。
武術をビジネスにしなくても、本業で食うて行けますし。
こんなこと、大っぴらに言ったら、太極拳人口の9割を敵に回すような気がします。このブログは匿名なんで本音で語りますが、自分のFacebookじゃ絶対に言いませぬ。
YouTubeで顔出しして、堂々と自分の意見を語っている車田先生は偉いですねえ。ドイツからの発信だからかもしれませんけど…。
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