「太極拳を語る」(馬長勲老師)の感想

私の9人の先生のうちの一人の先生が、とっても勧められていたので、買って読んでみました。

先生というのは、私が勝手に先生だと思っているのですが、時々推手を教えてくれる先生です。教えてくれるというか、遊んでくれているというか、私をポイポイと投げたりしてくれる太極拳の名人です。

その先生が勧めておられる本がこちら。

BABジャパンより発行の「太極拳を語る-心と体を養う、推手の理解と実践」です。呉式太極拳の重鎮、馬長勲老師が口述し、王子鵬さんが文字起こしして、植松百合子さんが日本語に翻訳している本です。

太極拳名人の練習風景

前半の人物編では、馬長勲老師が、そのまた先生方から学んだことや、聞いたことが書かれています。文化大革命前の古き良き時代、文化大革命後の厳しい時代、先人たちはどのように修行していたのか、どんな苦労をされたのか、どのように後進に伝えてきたのか、何を大切にして、何を嫌っていたか、その雰囲気が感じられるエピソードがたくさんです。

先生の先生に無理やり教えを請いに行った話とか、乱暴者からの挑戦をどうあしらったとか、太極拳好きの北京の市長を投げ飛ばした話とか、愉快な話がたくさんあります。文革後はマンションぐらしで、トレーニング用具や武器を置いておくところもなくなったとかいうお嘆きもあり。

私は、昔の武術修行って、秘伝で門外不出だとか、一手教わるのに家を売るほど金を積まないといけないとか、うかつに秘技を見たものは死ぬとか、そんなイメージを持っておりましたが、この本に出てくる呉式太極拳の老師たちは、とってもいい人たちで、誰にでも親切に教え、お代は一円も取らなかった、お食事に招待しても断わられたという逸話がいっぱい出てきます。

呉式の門派が特別なのかもしれませんが、よその先生に習ったら破門! というようなことが全然なくて、師弟関係もずいぶん寛容だったようですね。

漫画の拳児には、いかめしい拝師の式典など描かれておりましたが、馬長勲老師の時代はすでに現代風に簡略化されていたようです。

太極拳は、養生して長生きするのが一番だいじ、体を壊すような練習はしない、呉式の名人はみんな長生き。しかし、四両の力で、千金の怪力を飛ばしてしまう武術でもある。しかし、今の時代はそんな凄い人はいなくなったという話が書かれております。

本の帯には「神手と呼ばれる伝統太極拳のレジェント」なんて書かれているのですが、本文中には、先人たちにはかなわないというようなことが書かれておりまして、昔の名人たちって、どれだけ凄かったのかと、びっくりします。

革命後はみんな貧乏で、練習は、公園や先生の家や、そこらへんで好きな人が好きなように集まってやってたらしいです。

現代の日本でも(というか私の周りでは)、そんな練習風景は普通に見ますから、今とおんなじような雰囲気だったのだな、と思ったりしました。太極拳の教室に、神棚のある板張りの道場なんて恵まれた環境は、あんまりないですものね。よくて、せいぜい公営の体育館でしょう。私は川の橋の下でも教えてもらっております。

後半は推手の解説

後半の拳理編は、なかなか難しかったです。

例の漢詩みたいなのがたくさん出てきます。その意味を、本当はこういうことだと、語っておられます。へー、そうだったのかと、今までの思い違いを改められるような内容もありました。初めて知ることも多かったし。

しかし、この本の内容って、推手を全然練習していない人が読むと、まったくチンプンカンプンじゃなかろうかと思った次第です。私も、半分くらいしか、よくわかりませんでした。

難しいことを考えすぎないで、たくさん練習しなさい、後天の本能を捨てて、赤ちゃんのように戻りなさいというのが、一番印象に残りました。

今、私が学んでいる推手は、自分自身は力を入れず、相手の勁を感じながら、太極拳の動きを守って正しく動いていれば、相手のほうが勝手に崩れるとか、相手の力を、自分の僅かな動きで誘導して、返すのだとか、そんなかんじです。

(これだけでも、套路しかやっていない人にはわかりますまい)

無理に力を込めたり、相手の隙を狙って勝ちにこだわると、先生にはたしなめられます。それは太極拳じゃない、ということで。これは、馬長勲老師の教えている推手と、同じ路線といえましょう。

今の中国では、競技化の弊害や、仕事で忙しくて、ゆっくりじっくり練習できないということもあってか、推手が単なる力比べ、押し合いへし合いになってしまっていて、本質から離れていっているというお嘆きもありました。

中国人より、日本人を始めとして、わざわざ学びに来る外国人のほうが素直で熱心、上達しているとも。

意外な感じもしましたが、今の時代、太極拳を学ぶのには、もしかすると日本に生まれてよかったのかもしれませんね。

陳式太極拳の本場、陳家溝で修行した先生も、今の陳家溝の子どもたちは、ゲームばっかりやってて太極拳を学ばないと嘆いておられましたし。

めぐり合わせの環境に感謝して、修業に励みたいと思います。

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