虎を抱いて山に帰る(太極拳の本)の感想

太極拳

「虎を抱いて山に帰る」は太極拳に関する名著という噂でしたので、読んでみようと思ったら、絶版でした。

アマゾンでは、中古本を1円とかで売っておりますけど、この本はプレミアムなのか、超高額になっておりまして、とても買えませぬ。

【中古】虎を抱いて山に帰る?太極拳の本質

しかし、今どきは、図書館の本もネットで検索できるのです。幸運なことに、我が家の最寄りの図書館に所蔵されておりました。

あんまり人気がないのか、閲覧コーナーには置いてなくて、地下書庫から引っ張り出してきてもらって借りられました。

ようやく日の目を見た!ってかんじですが、本は、けっこうヨレヨレ。かつては多くの人が読んでいたのかもしれません。

目次

虎を抱いて山に帰る 中身紹介

タイトルからの印象で、太極拳を主題とした小説みたいなものかと勝手に思ってましたら、全然違っておりまして、内容は、実際に行われた一週間のセミナー(ワークショップ)の記録でした。

1970年頃に、アメリカで開催されたワークショップのようです。

ワークショップの講師(この本の著者)の黄忠良(ファンツォンリャン)さんは、中国で生まれ、芸術や武術を学んでいたけれども、故郷を離れ(文革の影響?)、台湾、アメリカへと渡り、東洋と西洋を融合したユニークな建築家、演奏家、講演家になられたと紹介されております。

ワークショップは、現代のアメリカ人が好きそうな、護身のための武術講習という要素はなくて、太極とは何か?陰陽とは、みたいなことを、ダンスや書道を通じて伝えるというものでした。

受講者にとっては、日本の禅や茶道と同じようなカテゴリーじゃなかったでしょうか。(この本にも、「禅」の章があります。)

1970年ころのアメリカといえば、ベトナム戦争、反戦運動、ヒッピー活動が盛んな頃ですね。

その頃の映画に「イージーライダー」ってのがあります。通りがかりのヒッピー村でマリファナを吸ってゴロゴロしていると、怪しげな太極拳をしている奴がいた、というようなシーンがあったような気がします。(曖昧な記憶)

たぶん、太極拳って、当時は格闘技術としてではなくて、東洋の神秘、スピリチュアルな呪術的舞踊として、自然回帰を目指すヒッピーな人々に受け入れられていたのでありましょう。

(まあ、今も一般的イメージはそんなもんかもしれませんけど。お年寄りのための安上がりな健康体操、みたいな。)

この本に出てくるワークショップの受講者達が、ヒッピーたちだったのか、東洋思想に関心のあるインテリ層だったのか、セレブの暇なおばちゃまたちだったのか、よくわかりません。

しかし、白か黒か、善か悪かの二極的考え方の西洋思想な人々にとって、始めも終わりもないとか、動いているものは止まっているとか、我も彼も同じというような太極の考え方が、驚きを持って新鮮に受け入れられたのは間違いなかろうとは思います。

だからこそ、名著として、改定を重ねられてきたのでありましょう。

太極拳の本じゃなかった

著者が本の中で書いているように、この本は、「太極」についての本であり、実は「太極拳」の本じゃないのですね。サブタイトルに「太極拳の本質」と書いてありますけど、出版社の人がわかりやすいように付け足したのではないでしょうか。

もし、套路の順番とか、武術テクニックを知りたい現代の読者がこの本を読んだら、何も得るところはなくて「金返せ!」と思うかもしれません。(図書館の本なので、タダですけど。)

前回にご紹介いたしました「太極拳理論の要諦」ともちがい、理論を説くものでもないです。なんというか、体を動かしつつ、自然な体の動きを、宇宙のパワーを、感性で味わうというか、ふわっとフィーリングというか、そんなかんじです。

文字を読み解いて、頭で理解していきたい理論派には、なかなかに響かない本だと思いました。

推手の仕方も紹介されていますが、これも格闘の練習ではなくて、円を描いて陰陽が一体となって…というようなエクササイズとして実施されていたようです。

著者のリードのもと、ワークショップに参加していたアメリカ人たちには、東洋的な新しい感覚とか、考え方や、人との接し方など、得るものが多かったのであろうと思いますが、本を読んだだけでは、ある程度、太極拳を学んだ経験のある私でも、いまひとつ、ピンと来なかったです。私の読み取り方が甘いのかもしれませんけど。

まあ、やらねばわからんってことですよ。これは、きっと現代の太極拳学習者も同じなんだと思いまして、套路や推手をどんどんやって、本はヒントにするのが良いと思います。

この本も、ところどころ、ああ、なるほど、と思うところも無きにしもあらずなので、太極拳学習者は、一度は読んでおくほうがいいんじゃないかと思いました。(でも、アマゾンのプレミアム価格で買うほどのことはないと思います。)

「虎を抱いて山に帰る」の意味

ところで、虎を抱いて…というタイトルは、漢文にすると「抱虎帰山」になります。これは、太極拳の動作の一つですね。(陳式太極拳の套路では「抱頭推山」というのがありますが、同じなのかな??)

この本では、抱虎帰山は、自然な呼吸をする準備運動として紹介されたりしてます。

この本の中ではないのですけど、著者がどこかのインタビューで答えていうには、「虎」というのは、人の感じる「不安」とか「恐れ」みたいなものを表した言葉で、それと戦ったり逆らうのではなくて、優しく抱いて、生きていくのだという話でありました。

そういわれましても、修行不足なのか、私にはよくわかりません。どうも、すみません。

ちなみに、同じ名前の曲がジャズナンバーにありますけど、これの出処はよく知りません。

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