太極拳がゆっくり動くのはなぜ? 

武道・スポーツ

太極拳を始めたばかりの頃、ゆっくり動作になかなかなじめなかったのです。

それまで、格闘技の中でも最速スピードを誇る少林寺拳法をやってましたので、こんなにゆっくりじゃ戦えんじゃないかという思いがありました。体操代わりにしても、汗もかかないし、と。

套路(型)を一通り覚えるまでは、ゆっくりやってましたが、手足の動かす順番を覚えたあと、一人で復習を続けるのに、わりといいかげんにスピーディーになっておりました。Uターン就職をして教室に行かなくなってからは、自己流に変わっていっておりました。

特に、陳式の第2路は、ビシッバシッとハツラツとした発勁動作が多いので、スピードと勢い重視で、細かい動きはテキトーになってしまいがちですね。かなり雑になってました。

発勁動作といいつつ、ちゃんと発勁もできてなかったです。

>>中国武術の発勁

一人練習を続けて10数年後、YouTubeで陳正雷老師の動画を見つけました。私がはじめて太極拳の講習を受けたときの先生です。

あら、こんなにスローだったのね、とショックを受けました。

動画にあわせて、またゆっくり練習するようになりましたが、ゆっくり練習の意味に気づいたのは、ふたたび地元の太極拳教室に入って楊式太極拳を習い、推手の練習もするようになってからでした。

目次

太極拳がゆっくり動く意味

太極拳以外の武術や格闘技をやっていて、腕立て伏せやウサギ飛びで体を鍛えている人には、なかなか理解し難いと思うのですが、太極拳は筋力を使わないのです。力をこめてぶん殴る技はないし、つかんで引き寄せて放り投げると言った、引っ張る力も使いません。

もちろん、まったく筋肉を使わないわけじゃというか、実際には筋肉を使わないと体が動かせないわけないですが、上腕筋ふくらめ!とか、ふくらはぎ、踏ん張って耐えろ!という感覚ではなくて、気というか、意識が体を支え、イメージが体を動かすという感覚です。

たとえば、腕をあげるとしたら、筋肉を縮めて引っ張り上げているのではなくて、力を入れなくても、空気中に浮力で持ち上げられていくというかんじです。ホントは、腰や背中についている伸ばす筋肉が働いているということですが、意識の上では筋肉のことは考えておりません。

筋力じゃない、気とか意識が体を動かしている力を、「勁」と呼ぶようです。勁力が満ちていると、筋力で踏ん張らなくとも、少々の力で押されても動かないほど、どっしりとした体勢になります。外に向かって膨らんだ風船のような意識です。

套路で動いている時は、勁が巡るように正しい体勢になっているかを意識しています。へっぴり腰だとか、胸の張りすぎや腕が縮こまったりするのは、気の流れが止まってしまって、スムーズに動けなくなります。

こういう一連の動作を正しく練習しようとすると、ゆっくりとじゃないとできないのです。

套路だけだと、あんまりわからないですが、二人で手を合わせる推手だと、てきめんに理解できます。体勢が悪く、勁が途絶えると、微妙な数ミリの動きで崩されてしまいます。

また、相手の力を受け流していく化勁も、自分から動いてしまうとうまくいかないです。相手のゆっくりの力を感じて、合わせていくように練習します。

推手や教室での練習で習ったり気づいたことを、意識して套路をやってみると、自然とゆっくりになってしまいますね。

ゆっくりでも、気が巡っているためか、体は熱くなって汗をかきます。速く動いていたときより熱いです。しかし、心拍数は特に上がったりしないので、しんどくはないです。

早く動こうとすると、雑になって、キチンとできません。キチンとやったら、今までの3倍くらい時間がかかるようになりました。

これで改めて、youtubeをみると、老師の動きは早すぎてついていけないです。

スピードと表面的な形だけ動画に合わせて、けっこうできるやん、俺、なんて思ってたのは、まったく浅はかでした。

発勁もゆっくり

陳式太極拳は、フンはっ!と勢いある発勁動作が特徴ではありますが、これにとらわれすぎるのも、よろしくないなあ、と思うようになりました。

スピードだけにとらわれると、体勢がキチンと整っていないし、勁力がちゃんとでていなかったような気がします。(そんなんでも板割とかはできますが、板割りって実は簡単で、試割り用の板なら誰でもすぐできます)

そもそも発勁というのは、勁を発することで、瞬発力というような意味じゃなかったのですね。

相手の力を受けて、ためて(蓄勁)、ゆっくりと相手に返していくのも発勁だということで、正しく動けば、フンハッ!と勇ましく動かなくとも、小さな勁で相手を崩せるのでありました。

それと、ゆっくり動くのは健康上も良い感じです。

勢い良く体を震わせながらの突きの動作や、震脚をバシバシ繰り返していると、練習後なんだか頭が痛くなってたんですが、ゆっくりやってたら痛くなくて、気持ちよさだけが残るようになりました。

また、私は、肩を脱臼してまして、亜脱臼だったんですけど、それは太極拳の練習のせいではないんですけど、整体してもらったあとも、套路を練習しているとなんだか肩が引っかかる感じがあって、痛んだりしていました。

しかしこれも、ゆっくり練習で、痛くない角度や方向を探りながら動かしてますと、それがけっこう気が巡りやすい自然な動きなんじゃないかと気づきました。

痛くないし、より太極拳らしい動きになったような気がします。

間違った動きを早くやると、体を痛めます。正しくゆっくりがいいです。

というわけで、太極拳がゆっくり動くのは、早く上手になるためなんだと、結論づけて、今回の記事はここまでとします。

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