松田隆智「謎の拳法を求めて」の感想

武道・スポーツ

松田隆智先生の「謎の拳法を求めて」は、ずい分前に買った本です。

ひょっこりでてきたもんで、久しぶりに読み返してみました。

目次

松田隆智 中国武術研究家

松田先生は中国武術の研究家として、沢山の本を書かれた人です。本職は僧侶。2013年にご逝去されておられます。

私が現在、日々熱心に太極拳の練習をしているのは、松田隆智先生の影響が大きいです。

高校生の時、中国武術に関心を持って最初に少林寺拳法を習い始めたのは、ジャッキーチェンやリー・リンチェイの映画の影響でしたが、太極拳を始めたのは、松田隆智原作、藤原芳秀画の漫画「拳児」の影響です。

漫画の中で一番のメインだった八極拳より、ちょこちょこ出てくる陳式太極拳のほうがカッチョよく見えたのですね。

たまたま京都の北大路かそのあたりの駅で、陳正雷老師の講習のポスターを見つけて、ノコノコと、参加したのが陳式太極拳との御縁でありました。

当時、松田隆智先生のことを「本書く派」とかいって、皮肉っている人たちもいましたけど、これだけ中国武術が日本で広がったのは、松田先生の功績が大きいと思います。

直接は知らなくっても、まわりまわってなにかしら恩恵を受けていると思いますので、中国武術に馴染んでいる人は、御縁のきっかけを作ってくれた松田先生に感謝いたしましょう。

「拳児」の原作

さて、「謎の拳法を求めて」は、大分古い本です。初版が昭和50年です。松田先生が本に書かれた、謎の拳法を求める旅は、日本と中華人民共和国の国交がなかった時代であり、中国武術は、まるで謎、という時代だったのですね。

松田先生は、もともとは空手を学んでおられて、極真会館になる前の大山道場にも在籍されていたとのこと。武術研究が好きで、示現流剣術、新陰流剣術、大東流合気柔術、八光流柔術、浅山一伝流坂井派、佐藤金兵衛などの武道を学び、そこからさらに、台湾、大陸へと、謎の拳法を求めていかれたということです。

紹介されている中国拳法は、太極拳、八極拳、秘宗拳、蟷螂拳、八卦掌、などなどいろいろですけど、それぞれの拳法については、ざっくりした紹介です。

この本では、それまでの日本における中国武術のイメージと、実際はどんなもんだった、ということを、御本人の体験を通して書かれております。

中国武術は、日本で思われているより、とってもスゴイぞ!という内容でありながらも、ほとんど偽物なので注意、ということも書かれております。

なんで、偽物ばかりなのかという理由が面白いです。

支那では伝統的に、師匠が、問題ありの弟子を破門するときに、お前は破門じゃ!と追い出すんじゃなくて、あなたはもう教えることがないほど素晴らしいので、卒業して自分の流派でも作りなされ、とやってきたそうなのです。

後で恨まれるのが嫌、ということで。

そんなわけで、調子に乗った未熟者が、次々と道場を開いて、我こそ正統派、みたいな看板を掲げてきたのですね。

そんなことを言われると、自分の学んでいるのがホンモノなのか心配になってきますが、最初に学んだのが陳家溝四天王のひとり、陳正雷老師なので、まあ、大丈夫でしょう。

 

中国拳法以外の話もあって、伝統的な古武術と、近代競技格闘技の違いなども興味深く読めました。これは、今でもよく議論されるところですが、松田先生の時代は、競技化が進みつつある頃だったと思いますので、先進的な視線と深い洞察力を持っておられたのだなと思います。

競技武道については、ちょっと批判的に書かれているところもありますが、自身もボクシングを経験したりして、そのテクニックを称賛されてます。このあたり「拳児」のネタにもなっておりますね。

「拳児」は、幼少時、八極拳を学んだ拳児が、高校を退学になったのを機に、行方不明になっていた、師でもある祖父を探しに、台湾、香港、大陸に旅をするという、壮大でドラマチックなお話です。

拳児のストーリーは面白く作られたものでしょうけど、出てくる人物や拳法、エピソードなどは、「謎の拳法を求めて」にでてくるので、拳児ファンにも面白く読めると思います。

 

武術マニアが喜こぶような本に思えますけど、いまとなっては、そんなにマニアックな内容でもなかったです。

超能力っぽい話とか、秘伝とか、裏技とか、多分一生縁はないけど興味を掻き立てられる話から、修行の心構えやシゴキの効能とか、知っておくべき教育っぽい話まであって、読み物として十分面白いです。

コメント